数学の力は才能で決まるのか ――竹山美宏『数学ができるとはどういうことか』より
記事:筑摩書房
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どうしたら数学の問題が解けるようになるのか。
そもそも、なぜ数学を勉強しなければならないのか。
この本は、そのような問いについて考えたエッセイをまとめたものです。数学を学びはじめた中学生や高校生に向けて書いています。また、数学が苦手だった大人のみなさんにも読んでもらえたら、と思っています。
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上に書いた「なぜ数学を勉強しなければならないのか」という問いは、私の頭からずっと離れないものです。
私は算数が好きでした。中学校に入り、勉強のしかたがわからなくなって、成績がぐんと下がりました。しかし、数学だけは好きで、数学の成績を上げることから始めて、なんとか大学入試まで突破することができました。
高校生の頃に、数学に関わる仕事をしたいと思うようになり、いまでは大学で数学を研究し学生に教える数学者になっています。
数学が好きだった私個人としては、数学を学ぶ理由など問題ではありませんでした。
数学が好きで楽しい。ほかに理由はいりませんでした。
どちらかというと飽きっぽい性格で、いろいろなことに興味はもつものの、長続きしたことがありません。しかし、数学だけはずっと続けています。こういうものを、高校生のときに見つけられて、しかも仕事にできたことは、とても幸運だったと思います。
しかし、「なぜ数学を勉強しなければならないのか」という問いは頭から消えませんでした。それは、私が生まれ育った環境が原因だと思っています。
若いころ、自分のまわりでは物事の価値が次の二つのことで決まっているように見えていました。
それはカネになるのか。
それはおもしろいのか。
自分が仕事にしている数学というものを認めてもらうには、これらの問いに答えなければならない。そういう強迫観念のようなものが、今も消えていないのです。
本文にも少し書きますが、私が若かったころは、大学で数学を学んだ学生の進路といえば、数学者になるか、学校の先生になるか。どちらにせよ、数学でお金が稼げるわけではない。ほとんどの人がそう考えていたと思います。
また、かつては数学をおもしろいと感じること自体が、奇妙なものと思われていました。大学生だったころ、テレビの深夜番組で、若いタレントが「大学で白衣着てフラスコふってるなんて気持ちわるいー」と言って、出演者全員で爆笑していたのを覚えています。数学に限らず、大学で理系の学問を学ぶことに、そういうイメージが持たれていたのです。
最近は状況が少し変わってきました。
日本の企業の人たちも、数学の重要性に気づきはじめているようです。
また、アニメやマンガ、テレビドラマでも、数学が得意なキャラクターが登場して人気もあるようです。
数学も社会に受け入れられてきたのでしょう。
とはいえ、中学生や高校生にとって、数学を学ぶ理由が問題でなくなったわけでもないはずです。
数学を使う職につくつもりがなければ、数学がカネになると言われても関係ありません。また、数学がおもしろいなんてまったく感じない人もいるでしょう。
しかし、中学校では数学を学ばなければならない。高校入試で数学は必要。高校でも数学Iは必修。そして数学はわけがわからない。
数学に苦しめられるたびに、なんでこんなものを勉強させられるのか、という想いは強くなるはずです。
強制された数学に対する、地の底からわき上がるような憎しみは、まだ収まっていないと私は感じています。
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この本では、「なぜ数学を勉強しなければならないのか」という問いを中心に、これまでいろいろと考えてきたことを、目次にある九つの問いに答える形で書きました。真正面から答えているものもありますし、少し違った角度から意見を述べているものもあります。
あえて言わなくてもよいかもしれませんが、この本に書いてあることは私の考えであって、数学の問題の答えのような、ただ一つの正解というものではありません。「そういう考え方もあるのか」と気楽に読んでもらえればと思っています。
ほかにも、読んでいただくにあたって、いくつか気になることがあるので、前もって書いておきます。
この本では、「数学を勉強するとこのような力がつくだろう、それは数学以外のところでもこのような形で生かされるはずだ」ということを書いています。ただし、これは科学的な調査や研究をもとに書いているわけではありません。
最近、企業で採用を担当する人(会社に新しく入る人を選ぶ立場の人)から「理学部数学科の卒業生はこのような力をもっていて今後に期待できる」という話を聞くことがあります。この本の内容は、そうした声を踏まえたものです。
また、「数学はこのような方法で勉強するとよいだろう」ということも書いています。しかし、この勉強法以外は間違いだ、と言うつもりは、まったくありません。あくまでも勉強法の一つの提案です。
受験勉強については、自分にあった方法を見つけることがもっとも重要です。もし、自分の方法でうまくいかないときに、この本の内容が参考になれば嬉しいです。
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私はこの本で、読者のみなさんに数学を好きになってもらおうとは考えていません。
数学が嫌いなままでもかまわない。ただ、数学をする意味は伝えたい。
それがねらいです。
第一章 数学の力は才能で決まるのか
第二章 数学をわかっているとはどういうことか
第三章 数学の正しさとはどのようなものか
第四章 数学のゼミでは何をするのか
第五章 問題を解くにはどう考えればよいか
第六章 問題を解けるようになるにはどうすればよいか
第七章 数学を学ぶことにどんな意味があるのか
第八章 数学の考え方で「答えのない問題」に挑めるか
第九章 ひらめく力がなくても数学は学べるか