「脳の意識 機械の意識」書評 スリリングで気宇壮大な実験
ISBN: 9784121024602
発売⽇: 2017/11/21
サイズ: 18cm/317p
脳の意識 機械の意識―脳神経科学の挑戦 [著]渡辺正峰
科学と主観の果てしない乖離(かいり)を乗り越えようという、科学者の果敢な挑戦。
人の意識を科学するのは、とてつもない野望である。科学は客観的な事象を扱う手続き。意識は完全に主観的な現象。守備範囲外だ。著者はそこに挑み、大きな宝物を掴(つか)んだ。意識の脳神経科学について、現在最良の一冊である。ただし、かなり難解。覚悟されよ。
大きく、前半の三章と後半の三章にわかれる。前半は、意識の脳神経科学の歴史と現状の総覧である。主観的な意識の状態の違いをなんとか客観的な反応の違いに変換して、科学的に操作しようと研究者たちは悪戦苦闘してきた。その歴史が抑制された筆致で語られる。参考文献リストが挙げられているのもうれしい。
とはいえ、科学的に扱えないものを扱おうとする挑戦の歴史だから、手を変え品を変え匍匐(ほふく)前進してきましたという趣で、専門外の立場からすると、ややまどろっこしい感は否めない。いや、とりもなおさず、科学の現場というのはこのような遅々とした歩みなのであり、その臨場感が的確に表現されているということではあるのだが。
後半の第四章以降は、著者が計画しているこれからの実験の話だ。打って変わって気宇壮大、門外漢にもわかりやすい。著者は問う。機械に意識を持たせることができるのか? それをどうやって科学的に検出できるのか? このあたり、とてもスリリングだ。
著者は、機械も意識を持ちうると確信している。それは、意識は脳が作りだしている仮想現実だと考えられるからだ(意識の生成モデル)。これは、とても腑(ふ)に落ちる仮説だ。身の回りは色や音であふれているとぼくたちは思って(感じて)いるけれども、外界に実際に赤やら青やらの色がついているわけではない。これらは脳内で形成されたイメージなのだ。
意識の科学は近いうちに大ブレークする——そんな期待を予感させる書だ。
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わたなべ・まさたか 70年生まれ。東京大大学院工学系研究科准教授。共著に『理工学系からの脳科学入門』など。