360゜BOOK「富士山」 [著]大野友資
手のひらサイズの本をぱっと開き、表紙と裏表紙がくっつくまで全面展開すると、富士山と日の出、鶴が現れるサプライズ。実にめでたい。本の中から立体造形が出てくる「飛び出す絵本」にも似ているが、360度全開させて現れるのは、造形というより風景に近い。中に読むべき文字はなくても、閉じてしまえば本の形だ。
「富士山」は、このシリーズ第1弾。書店はもちろん、美術館のショップでもよく売れるとか。外国向けのお土産に求められることも多いという。小さくて軽くて、開けば富士山。なるほどお土産にぴったりなのだ。
建築家の大野友資(ゆうすけ)さんが、ブロック状のメモ用紙を見て考案した。パソコン上で作り上げた3次元モデルを放射状にスライスしたデータを元に、30枚の紙をカット。2次元の絵が放射状に連なると3次元に見えるという仕組みだ。静止した立体パラパラ漫画といえばいいだろうか。本の中に「空間」を作り出したのも建築家の仕事らしい。
各ページが等間隔で開くように底部に張られた糸や、紙のカッティングには、伝統工芸にも通じそうな技巧が凝らされているらしい。そして屏風(びょうぶ)や絵巻、掛け軸のように、描かれた壮大な世界を畳んだり巻いたりして小さくするのは、日本を含む東アジアの伝統芸でもある。
富士山というモチーフはもとより、その作業工程やスタイルもまた伝統と通じつつ、先端技術やモダンデザインの感覚も生かされている。この本自体、全方位と接続しているのだ。
大西若人(本社編集委員)
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青幻舎・2700円=6刷3万5千部 15年11月刊行。このシリーズにはほかに『白雪姫』『地球と月』、最新刊『雪降る森』がある。シリーズ累計は8万7千部。=朝日新聞2017年12月17日掲載