さあ、夏休み! 子どもたちも本と向き合う時間が増えるのではないでしょうか。今回は「夏休み」をテーマに選んでもらいました。
(☆=新刊、★=既刊、価格は税抜き)
☆「靴屋のタスケさん」(偕成社)
「わたし」は、靴屋のタスケさんの手仕事に興味しんしん。金づちでトントンたたいたり、火で何かをあぶったり……。作者の子ども時代が背景にあるので戦争も影を落としているけれど、タスケさんの職人技に見とれる体験は楽しい。夏休みはプロの仕事を見るいいチャンス。絵も赤が印象的=小学校中学年から(角野栄子作、森環絵、1200円)
★「みずまき」(講談社)
かんかん照りの暑い日には、水まきがいちばん。女の子がホースで勢いよく水をまくと、あっちからもこっちからも小さな生き物が顔を出す。この分じゃ、この女の子もびしょぬれだな、と思っていると、最後にはちゃんと浴衣を着せてもらって涼しそう。命の豊かさが感じられる絵本。品切れ中なので図書館で見てね=幼児から(木葉井悦子作・絵)
【翻訳家 さくまゆみこ】
☆「よるのおと」(偕成社)
夏の夜、池のほとりを歩く男の子がおじいちゃんの家に着くまでのほんの数十秒を描いた絵本。リリリリ、チャプ、ゲコッ。五感を覚ます音と絵。深い青の階調の中に、蛍が描く光の軌跡や空気の震えも見えます。パシャッ。蛙(かわず)飛び込む水の音。波紋が銀河のように広がります。命が息づく15場面の宇宙を感じて=3歳から(たむらしげる作、1400円)
★「地球をほる」(BL出版)
夏休みは冒険を。つよしとけんたは地面を掘って地球の裏まで旅します。マントルを斜めに抜け、目指すはアメリカ。英語の得意な姉も誘って準備は万全。入念な計画のナンセンス。地球の中は発見が尽きません。掘り進む角度で絵本も斜めに傾けつつ読む仕掛け。ついには逆さになり……“Oh!” 縦書き本が横書きに。画期的な絵本の大冒険=小学校低学年から(川端誠作、1400円)
【絵本評論家・作家 広松由希子】
☆「グリムのむかしばなし1」(のら書店)
いつもよりゆったりとした時間が流れる夏休み。そんな時に出会ってほしいのがこの本だ。ワンダ・ガアグがこよなく愛したグリムの昔話が7話入っていて、なじみのあるお話でも改めて読んでみると新しい発見がある。続編の刊行が楽しみだ=小学3年生から(W・ガアグ編・絵、松岡享子訳、1600円)
★「ふたりのロッテ」(岩波書店)
お互いの存在を知らず、別々に暮らしていたルイーゼとロッテは夏休みの林間学校で出会い、自分たちがふたごだと知る。そして、離婚した父と母を仲直りさせようとある計画を思いつく。子どもに深い信頼を寄せている作者の思いがひしひしと伝わってくる物語=小学4年生から(E・ケストナー作、高橋健二訳、W・トリヤー絵、1560円)
【ちいさいおうち書店店長 越高一夫】
☆「15歳、ぬけがら」(講談社)
家事をしない母親との生活で唯一まともに食事がとれるのは給食だけ。日々の空腹を満たすことが最優先。将来に対して何の希望もなかった中学3年の麻美が夏休みに訪れた学習支援塾をきっかけに、生きることの本質を知り逃げずに進む道を見つけていく。貧困に苦しみ夏休みが苦痛な子どもたちがいることを知るきっかけになってほしい=中学生から(栗沢まり著、1300円)
★「あたらしい図鑑」(ゴブリン書房)
13歳の純は老詩人と出会い、言葉にならないもやもやした気持ちをスケッチブックに貼っていくことをすすめられる。自分の中にある「言葉」に初めて向き合い成長していく少年。この夏、あなたも「あたらしい図鑑」をつくってみては? きっと世界が広がること間違いなし!=中学生から(長薗安浩著、1500円)
【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵】=朝日新聞2017年7月29日掲載