「アリゲーターガーは、月を見る」
巨大な外来魚アリゲーターガー(ガー)を仲立ちにして、それぞれに生きづらさを抱える三人が出会い、やがて次の一歩を踏み出すまでの物語。
名古屋城のお堀にいるこのガーは、飼われていたペットが捨てられたものらしい。孤独なガーに自分の孤独を重ねるようにして会いにくるのは、中学生の朔哉(さくや)と航(わたる)、そして19歳の葉月。朔哉は弟が事故死したことで自分を責め続けている。航は、新興宗教にはまった母親の影響で周囲から浮いてしまい、いじめにもあって不登校になっている。葉月は、5歳のときに両親が事故死して以来育ててくれた祖母も亡くなり、バイト生活だが将来が見えない。
三人は、毎晩のようにお堀を訪れては、それぞれガーに話しかける。また、ペットとして持ち込んだのに今は肉食外来種として目の仇(かたき)にし、テレビ番組まで作って正義面の殺処分をしようとする身勝手な人々にいらだち、ガーを守ろうとする。
ユニークな設定だが、月をうまく配した物語には読ませる力があり、生態系や命について考えるきっかけにもなる。(翻訳家 さくまゆみこさん)
◇
山本悦子著、理論社、1650円、中学生から
「シリアの秘密の図書館」
冒険物語が好きで、従兄(いとこ)と「秘密結社」を作るのが夢。ヌールはシリアの町に住む少女。突然内戦が始まり、瓦礫(がれき)と化した町から拾い集めた本の山を見て「秘密の図書館」を作ろうと思い立つ。戦火をくぐり、半壊したビルの地下室に多様な本を運び込んで開館させた図書館は、やがて町の人々の希望と安心の「光」になる。
内戦下のシリアに実在した図書館から着想した物語。戦争の現実と生きる希望を共存させた画面。本は「絶望を乗りきる手だてのひとつ」と語る作者の言葉からも、実感が伝わる。(絵本評論家 広松由希子さん)
◇
タルノーフスカ作、ミンツィ絵、原田勝訳、くもん出版、1760円、小学校中学年から
「子どもも兵士になった 沖縄・三中学徒隊の戦世」
今から80年前の戦争で、子どもたちが戦場へ駆り出されたという史実をこの本で知り驚いた。ここに書かれている沖縄戦では、県民が巻きぞえになっただけでなく、県立第三中学校の生徒たちは、充分な訓練を受けることもなく、アメリカ軍との戦争の前線に立たされたのである。三中にあこがれて入学した東江平之(あがりえなりゆき)も、勉強どころか毎日が軍事教練だった。前線では情報収集をしていたが何度も命の危険にさらされた。
ここで戦死した少年兵たちの無念の涙の意味を子どもたちに語り継いでいきたい。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
◇
真鍋和子著、多屋光孫(たやみつひろ)絵、童心社、1980円、小学校高学年から=朝日新聞2025年6月28日掲載
