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「デヴィッド・ボウイ インタヴューズ」書評 大声でよく笑う悲観主義者

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2017年01月08日
デヴィッド・ボウイインタヴューズ 著者:デヴィッド・ボウイ 出版社:シンコーミュージック・エンタテイメント ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784401643356
発売⽇: 2016/12/17
サイズ: 21cm/671p

デヴィッド・ボウイ インタヴューズ [編]ショーン・イーガン

 デヴィッド・ボウイに代わってデヴィッド・ボウイになりたい人間ならこの本は彼らにとってバイブルに違いないが、ボウイ当人はデヴィッド・ボウイに辟易(へきえき)としながらも別の架空のロックスター「ジギー・スターダスト」を想定して見事スーパースターになるという現代の神話である。ところが、それがどうした、という結果を招いたことにあわてたボウイはリアリティーを取り戻そうとするが何をやっても飽き性な性格は22歳で肉体的に中年が目前だと言い、「僕はとんでもなくビッグになるよ、ある種自分でも怖いぐらいだ」と豪語する。スーパースターの末路に危険な運命が口を開けて待っていることに彼は気づいていたのだろうか? スーパースターを導く運命の女神が死の案内人であることを。知ってか知らずか彼はバイセクシュアルを愛すると同様に死を偏愛しながら、かつてのスーパースターたちと同じ運命を歩んでいる。
 ボウイは一瞬たりとて危険な綱渡り状態でない時はなかったと言う。そんな彼をファンは固唾(かたず)をのんで見守る。ボウイの不安な感情が彼から一貫性を奪い取り、何をしても達成感が得られない。ただただバラバラの断片を引きずって旅から旅へ、居住地を変えながら、こっちの社会からあっちの社会へと転々と変化を求め、ありとあらゆることを試しながら精神のボヘミアンとしてオデッセイへと旅立つ。そして、自らをミュージシャンではない、むしろ演劇や美術の世界を指向すると言い放つ。他のそこら近辺のロッカーとの間に一線を引くアーティストだと主張する一方、ビジネスを重視してコアなファンを裏切ってみせたり、そのカメレオン的天才アーティストの仮面(ペルソナ)を顔面に食い込ませながら、歯並びの悪い口でケタケタと大声を上げて笑うが、どこかピカソの「泣く女」と重なる。彼はよく笑うが決して楽観主義者ではない。むしろ悲観主義者であり、ニヒリストである。
 そんなつかみどころのない謎多きボウイはエイリアンにあこがれながらエイリアンと定義されることを恐れる。地球人になりすまして、なれない異星人だと人は評し、神秘の存在にまつり上げたりするが、それに抵抗しながら、「歌詞と曲以外、そこには何もありはしない」と、アンディ・ウォーホルから借用したような哲学と知性でファンを煙(けむ)に巻いてますます神格化する、実に現実主義的なシュルレアリストであると同時にダダイストでもある。ボウイの言葉は明晰(めいせき)であると同時に韜晦(とうかい)している。シュルレアリスムのデペイズマン=異質なものを無節操に共存させる、そんな無手勝流ヒューマノイドのボウイだった。
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 昨年1月10日に69歳で死去した英ロック歌手デヴィッド・ボウイのインタビュー集。1969〜2003年、英米の新聞・雑誌に掲載された31本の全文に加え、初出の1本を収録▽ボウイの大回顧展が、4月9日まで東京で開催される。詳細はwww.DAVIDBOWIEis.jp