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「戦後民主主義をどう生きるか」書評 同盟は「戦争の導火線」と警告

評者: 杉田敦 / 朝⽇新聞掲載:2016年11月20日
戦後民主主義をどう生きるか 著者:三谷太一郎 出版社:東京大学出版会 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784130033398
発売⽇: 2016/09/28
サイズ: 20cm/262p

戦後民主主義をどう生きるか [著]三谷太一郎

 「日本の歴史上の民主主義は、すべて戦後民主主義であったといっても言い過ぎではない」。戊辰戦争の「戦後民主主義」としての、福沢諭吉らの「公議輿論(よろん)」の要求。西南戦争の「戦後民主主義」としての自由民権運動や、日清戦争後の政党政治の活発化。日露戦争と第1次大戦後の大正デモクラシー。これらはいずれも、現在の「戦後民主主義」の先駆をなしたと三谷は評価する。
 政治学者・南原繁は、中ソとも講和する全面講和論を唱え、吉田茂首相に「曲学阿世(きょくがくあせい)」と批判されたが、その後の歴史を見れば、この議論が「事実として日ソ・日中国交回復を促進する役割を果たした」ことは明らかである。
 南原の弟子・丸山真男は、福沢に強い関心を抱き、参照し続けたが、それは、「維新後の福沢と戦後の丸山とは、それぞれの旧体制(アンシャン・レジーム)と決別し、自立的知識人への道を歩んだという意味において共通性をもつ」からである。福沢は明治政府と距離を置き、「政治的アマチュア」のリーダーたろうとした。この姿勢は、大正デモクラシー期の吉野作造に受け継がれる。そして丸山も、終戦直後に近衛文麿と接点をもつなど、権力のブレーンになる可能性があったにもかかわらず、それを自ら断ち切り、普通の人々に語りかける道を選んだのである。
 本書には、南原、丸山の他にも、学者らへの追悼の辞が、多数、収められている。彼らが中心となって築いた戦後民主主義の現状はどうなっているか。
 集団的自衛権問題に関連して著者は、戦後日本を否定する現政権の姿勢を鋭く批判し、日英同盟と日独伊三国同盟という、日本が結んだ「過去の二つの同盟は、いずれも戦争の導火線」になったと警告する。戦後民主主義の課題は、それを「歴史上最後の『戦後民主主義』とすること」にあるという碩学(せきがく)のメッセージを、胸に刻みたい。
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 みたに・たいちろう 36年生まれ。東京大学名誉教授(日本政治外交史)。『人は時代といかに向き合うか』