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「勝利」見据えてこそ次の一歩

評者: 石川尚文 / 朝⽇新聞掲載:2018年06月02日
進歩 人類の未来が明るい10の理由 著者:山形浩生 出版社:晶文社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784794969972
発売⽇: 2018/04/24
サイズ: 19cm/342p

ニュースやメディアが書き立てるネガティブな終末世界は本当か? 反グローバリズム運動への批判を展開してきたスウェーデンの歴史家が、明快なデータとエピソードで、明るい未来への…

『進歩 人類の未来が明るい10の理由』 ヨハン・ノルベリ〈著〉

 いまどき「人類は進歩している」とドヤ顔でいえば、何をのんきな、大阪万博ではあるまいし、と冷たい視線を浴びるかもしれない。いや、半世紀前の万博のテーマも「人類の進歩と調和」で、ちょっと留保がついていたのだった。
 だが、本書は断言する。「現代のすばらしい物語は、私たちが史上最高の世界的な生活水準改善を目撃しているということだ」
 食料、衛生、期待寿命。19世紀といまを比べれば、天地ほどの差がある。しかも世界的にみれば、ここ数十年の進歩も大きい。
 貧困と暴力。近年のグローバリゼーションは産業革命より所得を増やした。テロ攻撃は増えているが、実際の被害者は少ない。
 半世紀前に心配された環境の大惨事は起きなかった。CO₂の増加は心配だが、豊かさと技術の進展は、問題を扱いやすくするだろう。そして自由や平等についても、人類は着実な進歩を続けている――。
 数値データと平易な叙述に加え、本書の力強さを支えるのは、人間への信頼感だ。豊かさを求め、新しい知識を生み出す営みが蓄積され、さらなる歩みにつながる。進歩のリストは「次世代」で結ばれている。
 さて、あえていえば臆面もない、この進歩の称揚をどう受け止めるべきか。
 「個人の自由、オープンな経済、技術進歩」を発展の支柱とみる本書の立場には、先進国内の経済格差への関心が薄いことが気にはなる。独裁者が核をもてあそぶ姿をみれば、暴力の暗雲が去ったわけではない。急激な少子高齢化は、次世代を危うくしないのか……。
 著者も「本書は人間の勝利に関するものだ。でもそこに安住しろと告げる本ではない」と述べる。
 それでも、いまや当たり前のような「勝利」の事実を踏まえない議論は、空回りする。本書が教えてくれるのは、全体像を捉えることの大事さだ。そうした大局観を欠きがちなメディアの一員として、耳が痛い。
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 Johan Norberg 73年、スウェーデン生まれ。作家、歴史家、ドキュメンタリー映像作家。