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日蘭交流で瞬く間に受け入れ

種痘伝来 日本の〈開国〉と知の国際ネットワーク 著者:アン・ジャネッタ 出版社:岩波書店 ジャンル:医学

価格:4320円
ISBN: 9784000259361
発売⽇:
サイズ: 22cm/216,38p

牛痘種痘の最新技術を日本に伝え、広めようとする苦闘のなかで形成されていった国内外の医師や学者の知的ネットワークを辿りながら、その後の日本の近代化を準備することにもなった彼…

評者:荒俣宏 / 朝⽇新聞掲載:2014年03月02日

■種痘伝来―日本の〈開国〉と知の国際ネットワーク [著]アン・ジャネッタ

 江戸の蘭方(らんぽう)医がジェンナー式種痘を導入するまでのドラマを、海外からの視点で検証していく点に鮮度が感じられる一冊。牛の病とされた「牛痘(ぎゅうとう)」が、乳牛飼育に使役される男女を通じて人に感染することは、以前から知られていた。ただ、人に出る症状は軽く、回復した後も天然痘に感染しない。ならば予(あらかじ)め人に牛痘を植えて、天然痘を防ぐことができるはずだ。
 ジェンナーはこの発想から牛痘種痘を発明し、それに「牛」を表すワッキーナエなる学名を与えた。これが「ワクチン」の由来である。だが問題は、痘苗を生かしたまま遠方まで運ぶことの困難さである。初期には、未感染の子どもを次々と牛痘に感染させながら運ぶ「人体リレー」の方法すら取られた。
 当時、植民地争いで対立していた列強は種痘伝播(でんぱ)のために協力体制を布(し)き、十年のうちに中国の広東まで伝播させた。残すは門を閉ざし続ける日本国だけだ。ナポレオン戦争中に独立を失っていたオランダは、戦後再開した日蘭貿易船に、バタビア製の痘苗を積んで送る。またシーボルトも着任時にこれを運んだ。しかし長旅で痘苗の活力が失われ、植え付けには失敗する。
 ここで偶然の幸運が作用する。事態が遅滞している間にオランダ商館は、日本人蘭方医との私的な交流網を築き、日蘭辞書の編纂(へんさん)や種痘書の翻訳も実現したのだ。ゆえに、最初の「生きた痘苗」が長崎に到着すると、準備万全となった日本全国へ瞬く間に伝播した。導入に尽力した蘭方医楢林宗建はまず息子らに試し、そこから佐賀藩主鍋島直正の嫡子(ちゃくし)に植えられた。表紙にもなった油絵を見ると、幼い嫡子が堂々と腕を出し、恐れるところなく種痘を受ける姿に驚かされる。ここに子どもと種痘の深い因縁が開示され、「ジェンナーが我が子に試し植えした」との誤解が生まれた背景も納得。読みやすい訳文で興味倍増する。
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 廣川和花・木曾明子訳、岩波書店・4200円/Ann Jannetta 32年生まれ。米ピッツバーグ大学名誉教授。