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動物たちとリアルな冒険RPG  春間豪太郎さん『行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』

文:加賀直樹、写真:斉藤順子

――初の刊行本。3章立てなんですね。

 はい。第1章がフィリピンでの初冒険。第2章はエジプト。ラクダ飼いの見習いになったら死にかけた話。この本のメインが第3章で、動物と歩くモロッコ野宿旅、の3本です。

 昨年、キルギスで馬の旅をした時に、電子掲示板でスレッドを立てて、ツイッターのアカウントも作ったんです。そうしたら出版社から連絡が来て、過去の冒険譚を本にしないか、と。当時のスレッドを参考にしつつ、日記をベースに書き直しました。第1、2章はキルギスで、冒険の合間を使って書きました。馬と冒険した後、イヌワシを飼う男の家で居候していたんですけど、その時に全部仕上げましたね、タブレット端末で。ソーラーパネルで充電して。

――ネタバレ厳禁ですが、読み進めながらも手に汗を握るような、痛快な冒険譚。しかも現地の人たちに愛される人間力、愛嬌がある。文章にそれがにじみ出ていて、引きこまれます。

 嬉しいです。先日、大先輩のノンフィクション作家・高野秀行さんにも本を褒めて頂いたことを知って、嬉しかったです。

――第1章、失踪した親友を探しにフィリピンへ旅立った経験が、そもそもの冒険人生の始まり。

 はい。2010年、大学2回生の春でした。もともと出身は京都。平安神宮や銀閣寺のある、中心部から少し北の方です。大学だけ大阪なんですね。それまでは、海外なんて高1の時に研修旅行でニュージーランドに行った程度。京都に住む親友のお父さんに「息子を探してくれ」と言われ、そのまま旅立ってしまいました。常識が通じないことだらけ。未知の世界に飛び込む楽しさでいっぱい。お父さんの一言がなければ今の生活はないと断言できます。

――帰国後、大学を休学。それからは、どんな毎日を?

 ニューヨークやケニアのナイロビなどでスラム街に入り浸り、ヒッチハイクや野宿の放浪生活でした。国内では、友人のつてで熊本の旅館に住み込みで働いたり、東京でプログラミングを独学で学び、IT系エンジニアとして働いたり。新宿・歌舞伎町や大阪・ミナミ、京都・祇園の繁華街では、客引きをして交渉術を覚え、冒険資金を貯めていきました。

 フィリピンのあと、大学復学までしばらく考える機会はありましたが、「どうしてもラクダと共にサハラ砂漠を歩きたい」との思いに至ったんです。説明は難しいんですけど、自分と向き合うなかで、死ぬまでに絶対やりたいことが、「それ」だと確信したんです。自分とはかけ離れた世界を知りたい。いわば、知的好奇心から出てきた欲望だと思うんですけど。

――そうして5年後に出掛けたエジプトでは、容赦なく降り注ぐ太陽にやられ、生命の危機に。折しも政情不安、テロの恐怖にも揺れた時期でしたね。ネットでは「頼むから鳥取砂丘にしておけ」なんてレスも付き、非難の嵐。現地でラクダの遊牧の見習い生活に明け暮れたものの、砂漠横断の夢は道半ばで断念。

 だから、まだ完全達成できていないんです。人生の最終的な目標。平たく言うと、今やっている冒険はすべて、「サハラ砂漠横断」のための経験値稼ぎみたいな感じです。

提供:春間豪太郎

――卓越した行動力の一方で、じつに用意周到に準備をしていますね。キックボクシング、ライフル、護身術を会得して。また、本文ではさらっと触れるだけですが、カメルーンで現地の人たちと自給自足生活も送ったのですよね。そもそも、何か国ぐらい行ったのですか?

 いや、少ないですよ、16、7か国ぐらい。基本的に観光はしていなくて、エジプトに3カ月ぐらいいたのに、ピラミッドを見に行っていない。誰も触れていない場所を知りたいんです。インドネシアのバリ島ではラクダに乗る練習をしました。カメルーンではピグミー族の村で暮らし、ある少年と出会って交流して。蛆虫の沸いた肉を食べ、泥水で生活しました。それらは皆、その後の人生に影響を与えていますね。「どんな苦労だって、あれに比べれば(マシ)」。家の近くにキックボクシングのジムがあるんです。基本的に週5回行っています。

――そして、現地の人たちとすぐ仲良くなっちゃう。言葉は、何か国語を喋れるのですか?

 英語、フランス語、ロシア語が話せて、生活で何とかやっていける。アラビア語やスペイン語、中国語は軽く分かるぐらい。勉強すればもうちょっと喋れるようになるかな。

――2017年には船舶の衛生管理者の講習まで受けて、そこで「自分や動物たちの命を救うためのノウハウ」を勉強したそうですね。

 絶対に勉強しようと思いました。その年にモロッコから帰ってきて、強く思ったんです。動物たちとのキャラバン旅を通じ、あそこで起こったあらゆる出来事がきっかけですね。

――そのメインの第3章、「モロッコ動物道中」の最中は、現地の人たちがFacebookや地元メディアで紹介し、すっかり有名になったそうですね。電子掲示板のスレッドも現地で書いていた?

 フェイスブック上に、モロッコの旅行写真が集まるコミュニティーがあって、そこに僕らの冒険の写真を撮った人たちが挙げまくっていたらしいんです。「ファンです」みたいな人まで出てきて。ジュースやお菓子を差し入れてくれました。現地のネットニュースにもなったみたいで。

――第3章では荷車を引くロバ選びから始まって、犬、猫、鶏、鳩と、まるで桃太郎の話のように次々と旅の仲間が増えていく。あらゆる意味で山あり谷ありの冒険譚。どうしても涙が流れてしまうのは、ある動物との別離のシーン。あの経験が、動物たちを救いたいと思うようになった?

 間違いないですね。技術や知識があれば命を救えた、とまでは思わないですけど、少なくとも延命措置はできた。僕に知識がなかったから気付けなかった。悔やんでいます。

提供:春間豪太郎

――野宿の大変さも伝わってきました。街では駐車場や警察署の横が多いですね。この夜をどう過ごすのかを日々考えなければいけない。田舎道なら良いけれど、都会のほうが危ない……。

 都会は難しいんです。一人だったらまだいろいろ手はあるんですけど、動物を連れているとなかなか。野宿の難しさがグッと上がりますね。本を手に取っていただければわかるかと思いますが、安全な冒険ではありませんでした。全員が無事最後まで来られたわけでもありません。でも、だからこそ、多くの思いを心に刻みました。たくさんの人々に支えられながら、動物たちと歩くことができたことは、自分にとって最高の冒険でした。

――ガシガシ国外に出て行って、自らピンチに遭遇し、それを受けとめて解決していく。春間さんの冒険は、いろんな人から支持されていますが、もっとラクな人生だってあるはずなのでは。

 根本的に、知的好奇心に逆らえないんです。こんな挑戦をしたらどうなるのか、自分で確認したい。他にやっている人が全然いないんですよね。調べても、英語で調べたぐらいじゃ資料が出てこない。完全に未知なんです。自分がやってみて、それを知りたいんです。

 それから、「ラクな道」というのも賛否両論。冒険って、帰ってから「足るを知る」ことができる気がするんです。冒険中はトイレやシャワーなんて一切ない。冷蔵庫もなくて、ぬるい水しかない。だから、たまに冷たい水がもらえるとすごく幸せ。そんな世界を知って日本に戻ると、どんな生活でも幸せに感じられる。日本にいて「窮屈だな、しんどいな」と思っていたことが、冒険を乗り越えると不幸じゃなくなる。どんどん楽に自由になってきます。

提供:春間豪太郎

――ネットの世界で発信していくのはなぜ? ストイックに冒険を続ける道もあるはずですが……。

 完全にそれを1人でやっちゃうと、独りよがりな世界しか育たない。他者からの客観的な要素を取り入れ、自分を育む。価値観、世界観を育てていくことで、自分のなかにより完全な、きれいな世界ができると思うんです。そのためのフィードバック集め、情報収集。なかには批判的な意見もありますが、ブログだと褒める意見しか集まらない。それは面白くない。

 1冊の本になって嬉しかったのは、「子供たちに薦めたい」なんて言ってくれた人がいたこと。学級文庫として取り入れてくれたり、小児科クリニックの棚に置いてくれたり。僕は子どもが好きなので、こういうのを読んで面白いなと思ってくれると嬉しいですね。

――次はカメルーンやキルギスでの冒険譚が本になるかも知れない。しばらくは日本に?

 今年はスキル習得期間。来年は海の冒険です。小さい冒険と、大きい冒険を一つずつやる予定です。でっかいほうは、4月ぐらいにやろうかな。詳しくは言えないんですけど。まあ、まだまだ勉強しないと。海となると、今度は船舶免許が必要ですしね。取りますよ!