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ビジュアル駆使して罪悪を描く

写真で見るヒトラー政権下の人びとと日常 著者:マシュー・セリグマン 出版社:原書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

価格:4104円
ISBN: 9784562045600
発売⽇:
サイズ: 22cm/354p

徹底管理された市民生活と青少年教育、産業の発展や景気復興策とともに行われたユダヤ人虐殺や異民族差別…。戦時下ドイツのさまざまな局面を、280点にもおよぶ貴重な写真とともに…

評者:逢坂剛 / 朝⽇新聞掲載:2010年05月02日

写真で見るヒトラー政権下の人びとと日常 [著]M・セリグマンほか

 第2次世界大戦が終わってから、すでに65年が過ぎようとしている。年数だけからいえば、太平洋戦争を含むこの大戦は、すでに遠い過去の出来事であり、ことに若い世代の人びとにとっては、歴史の一コマにすぎないだろう。
 ところが、この大戦に関連する出版物は戦後から現在にいたるまで、欧米を中心にほとんど途切れなく、刊行され続けてきた。中でも、圧倒的な数を誇るのはナチス・ドイツと、ヒトラーを扱った書籍である。欧米だけでなく、日本でもこの分野の刊行物は翻訳も含めて、驚くほどの数にのぼる。本書もその一つに数えられるが、これまでほとんど目に触れなかった、当時の貴重な写真をふんだんに使いながら、ヒトラー政権下のドイツを再現しよう、と試みた点に新味がある。ナチス・ドイツの誕生に始まり、〈警察国家〉〈抵抗運動〉〈芸術文化とプロパガンダ〉〈都市と農村〉〈大量虐殺〉など、12の章に分けてドイツ人民の暮らしぶりを、上下左右から紹介していく。
 ヒトラーの登場により、ドイツ国民はベルサイユ条約の屈辱から解き放たれ、国の威信回復と経済の復興に、狂喜する。その結果、ナチスとヒトラーのやり口に疑いを挟まず、無批判に受け入れることになる。そのため、ドイツ国民もナチス、ヒトラーと同罪である、と断定する意見も少なくない。
 著者は、従来活字にならなかったような、一般ドイツ人の手記や日記を丹念に掘り起こし、すべてが右へならえだったわけではないことを、例示する。その一方で、抵抗運動を行ったのはごく少数にすぎず、大多数のドイツ人はナチスの非道を知りながら、結局ヒトラーの呼号に従ったのだ、とも指摘する。そのあたりのスタンスは、ややどっちつかずの感があるけれども、もとよりそれを明確に規定することはできず、読者の判断に委ねるしかあるまい。
 いずれにせよ、ビジュアル効果をたくみに生かして、20世紀最大の罪悪の一つを、過不足なくまとめてみせた点に、本書の価値が認められる。
 評・逢坂剛(作家)
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 松尾恭子訳、原書房・3990円/Matthew Seligmann, John Davison, John McDonald