「ポピュリズムと司法の役割」書評 やっぱり問題 運用も原理も
ISBN: 9784763408549
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サイズ: 19cm/219p
ポピュリズムと司法の役割―裁判員制度にみる司法の変質 [著]斎藤文男
2009年の導入前には数々の問題点が指摘され、反対意見も多かった裁判員制度。だが、9年たった現在、反対論はいつのまにか姿を消し、メディアは「制度をいかに維持するか」的な議論に流れている。そんなんで大丈夫なのか?
本書を読んでモヤモヤが晴れた。やっぱりね。9年たってもやっぱりこの制度には問題が多いのだ。
実際、運用面から見ても裁判員制度はすでに破綻しつつある。16年現在、選任手続きのための出頭に応じない「無断欠席者」は37%、裁判員を辞退する人は65%に達する。世論調査では約8割が「参加したくない」と答え、その理由は「的確に判断する自信がない」など。本音をいえば、裁判員なんか誰もやりたくないのである。
量刑が変わる、死刑が無期懲役になる、甚だしきは有罪が無罪になるなど、控訴審で判決が覆るケースも少なくない。裁判に「市民感覚」を反映させるというのが導入の理由だったはずだが、控訴審でひっくり返るなら、何のための「市民参加」かわからない。
裁判員制度は司法のポピュリズムに関係していると著者はいう。民主主義は政治に民意を反映させるしくみだが、民意はときに暴走する危険をはらむ。司法はそこに自由主義の観点から歯止めをかける役割を果たしてきた。ところが!
〈裁判員制度は国民の司法参加によって、司法を法の支配ではなく、多数の支配のための機関に変えてしまいました。これでは、三権がいずれも多数支配の原理によって運用されることになり、権力の抑制・均衡が働く余地はありません〉〈司法を「民主化」してはならないと述べたのはそのためです〉
刑事裁判は人の命にかかわる事案だ。医師の資格を持たない素人に医師の代行が務まるだろうか。
中高生でも理解できるやさしいタッチで書かれた良書。しかし、その批判と問いかけは鋭く、重い。
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さいとう・ふみお 1932年生まれ。九州大名誉教授。著書に『政治倫理条例のすべて』『ちびた鉛筆』など。