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夜なべしてPOPを作るほど 池井戸作品に夢中です!

 京阪電鉄樟葉駅構内にある書店に入ると、まず目に入るのが楽しい手書きPOPの数々。なかでも目を引くのが、店の一角にある池井戸作品のコーナーだ。『七つの会議』の前には、ダンボールを利用して作った大きなネジ。『空飛ぶタイヤ』の映画公開にあわせて、ダンボール製のトラックやタイヤも飾られている。

手作りのグッズが並ぶ池井戸潤オシコーナー
手作りのグッズが並ぶ池井戸潤オシコーナー
 

「作品に感動すると、POPを作らずにはいられない。夜なべして作っていると、美大出身の夫にダメ出しされることもありますけど(笑)」

 そう語るのは、大阪・水嶋書房くずは駅店チーフの枡田愛さん。初めて読んだ池井戸作品は、『空飛ぶタイヤ』。当時くずは駅店の店長を務めていた丸本清則さん(現・水嶋書房枚方市駅店店長)から強く勧められ、〝仕方なく〟読んだという。

「丸本店長と私は、本の趣味がまったく合わないんです。店長は重みのある作品が好みですけど、私は本当のことを言うと、女性作家のかわいらしい物語が好きなので。ですから『空飛ぶタイヤ』も、池井戸先生には申し訳ないけれど、たぶん私の趣味とは違うだろうと思って、買わずに図書館で借りて読んだら、メチャクチャおもしろくて。思わず店長に『ごめんなさいっ!』と謝りました」

 以来、池井戸作品を読み続けているという枡田さん。以前、大手メーカーの営業本部で秘書をしていたこともあり、思わず感情移入してしまうそうだ。

「池井戸作品の魅力は、〝本物の話〟ということです。大手企業から経営が苦しい中小企業まで、上手に小説にするための偽のお話ではなくて、ものすごくリアリティがあります。『七つの会議』も、会社というものの本当の姿が描かれていると感じました。なんとか問題を隠ぺいしようとする人がいるところも、『会社というのは、こういう人もいるんだろうな』と思いましたし」

 

『七つの会議』は、大手総合電機会社の子会社である東京建電を舞台に、会社で開かれる会議にからめた作品。八話の短編が集まって、一作の壮大な物語になっている。立場が違うさまざまな人間の葛藤や決断、野望などが描かれているので、多様な人間模様を堪能できることも魅力で、野村萬斎さん主演で映画化も決定している。

「1話1話まとまっているのも、おもしろい構造ですよね。なかには若い女性社員の明るい話もあって、一息つけます。とはいえ、『これ、どうなるの?』『こんなところで終わるわけないよね』という気持ちも残ります。普通の短編集なら、寝る前に1篇ずつ読んだりもできますが、『あぁ、どうなるんだろう』ともどかしい気持ちで翌日過ごすのがちょっとつらい(笑)。一気に読みたくなりますね」

 枡田さんが『七つの会議』で好きなのは、筋を通して生きていこうとする人たちの姿だ。

「ある登場人物のセリフに『オレは魂まで売る商売はしたくない』というのがあります。そこにグッときました。一番好きなのは、最後の最後、『虚飾の繁栄か、真実の清貧か――』というくだりです」 

 もう1ヶ所、心に刻まれたのが、副社長の村西の心情を描写した次の一節。

――顧客を大切にしない行為、顧客を裏切る行為こそ、自らの首を絞めることになる。それがわかっていたからこそ、村西は、顧客に無理な販売をしてこなかった。誠実に、顧客のためを思って働いてきた。

「かつてメーカーにいた頃、上司から『本当に大事なのはお客様。会社の中を向いて仕事したらアカン』とよく言われました。今もそう思っています。だからときには出版社の営業さんに、『どっち向いて仕事してんねんっ!』とつい大きな声を出してしまうこともありますが(笑)」

 そんな枡田さんも、若い頃は、納得できないことがあっても口にすることができなかったそうだ。

「平社員だったし、まわりは50歳くらいのオッチャン。内心『こんなことするの』と思っても、何も言えませんでした。たぶん多くの方が、そうではないでしょうか。だからこそ池井戸作品の登場人物がスカッと啖呵切ってくれると、皆さん、スッキリするんでしょうね。とくに私は女性なので、『花咲舞が黙ってない』の花咲のように女性が啖呵切ってくれると、いい気分になります。池井戸先生が描く女性は、かわいいけど芯がある。そういう女性に憧れますね」

 

あ、あのネジが…!これも枡田さんの手作り
あ、あのネジが…!これも枡田さんの手作り

 出産・子育てのためメーカーを退職した枡田さん。子どもが小さい頃は、なかなか読書の時間が持てなかった。下の子が小学校に入ったのをきっかけに書店で働くようになり、読書の趣味を取り戻したという。今でも有川浩さんや瀧羽麻子さんなど女性作家の作品が好きだが、池井戸作品は特別な存在だとか。

「集英社さんが全国の書店を対象に行うPOPのコンテストがあるんですけど、実は『陸王』のPOPで、なんとPOP王ディスプレイグランプリをいただいたんです。地下足袋を自分で染め直して、穴をあけて金色の紐を通して。今では、POPづくりは生きがいです。これからもいい本や、本を読む楽しさを、できるだけ多くのお客様にお伝えできれば、と思います」