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プライドにはプライドで返す。 通勤バスで読んでは、涙、涙です

「『下町ロケット』は出版されてすぐに読みました。今回改めて読み直し、ストーリーはすべて知っているのに、読みながら一喜一憂。思わず「オッ!」とか「マジで?」とか、声が出てしまう。オチが分かっているのに、メチャクチャおもしろい。そんな本、そうそうないですよ」

 そう語るのは、水嶋書房枚方市駅店店長の丸本清則さん。大学時代、落語研究会に所属していたこともあって、『下町ロケット』を古典落語に喩えてこういう。

「古典落語はみんな筋を知っているし、オチも知っているのに、聞いておもしろい。『下町ロケット』もそれくらい完成度が高い、すごい作品だと、改めて思いました」

 

 主人公は、研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平。ある日、理不尽な特許侵害で訴えられ、資金繰りがピンチに。そんなとき、国産ロケットを開発する帝国重工が、佃製作所の特許技術に触手を伸ばしてくる。

 

「他の池井戸作品もそうですが、悪いやつを、ほんまに悪く書くでしょう。読んでいて腹が立つくらい(笑)。『下町ロケット』では、訴訟を起こしたナカシマ工業も悪(ワル)ですが、帝国重工はまさに悪のなかの悪。なかでも宇宙開発グループの主任の富山には、本当に腹が立つ。財前部長も、はじめは憎たらしい。でもその財前が、佃製作所を視察した際、その技術の高さに思わず『すごいなこれは……』とつぶやく。あのシーン、すごく好きです。悪の中にも筋を通す人、本物を見抜ける人がいることが嬉しいですね」

 

 お金に関する佃航平の葛藤にも共感するという。

「特許を売れば、20億入る。それがあれば会社の赤字は埋められるけれど、それでいいかと悩むわけです。でも社長がええこと言っても、最初は社員がついてきていない。前に赤字が出たとき、ボーナスがカットされたやないか。社長の道楽には協力でけん、と。ところが社員たちが考えを変える、ある出来事が起こる。そこが、一番好きなシーンです」

「これはプライドの問題なんだよ。お前だってそう思ってるだろ」迫田は黙ったままこたえなかった。(中略)帝国重工の検査担当に舐められ、否定され、そして最後に落第の烙印を押されることを、迫田も江原も、いや佃製作所の誰もが望んでいるわけではない。(中略)江原が続けた。「だけど、実際はじまってみたら俺自身が否定されてるような気がしたんだよ。お前らは所詮中小企業だ、いい加減だ、甘ちゃんだって。だけど、そうじゃないだろ?」

 その後、帝国重工のある社員も、誇りに満ちた発言をする。

「敵ながらよう言うた! という感じですね。もう、じんじん来ました。プライドにはプライドで返す。それが、この本のミソだと思います」

 

 ただ、この作品にはちょっと困っている点があると丸本店長。

「読書は主に、通勤のバスの中。登場人物が啖呵を切って、ぐっとくると、思わず涙が出てしまう。涙が本にぼたっと落ちると、けっこう音がするんですよ。まわりのOLさんとか、『ヘンなオッサンが朝から泣いてるわ、気色悪い』と思ってはるでしょうね。『下町ロケット』に限らず、池井戸作品すべてに共通することなんですけど、読みながらつい感極まって泣いてしまう。おかげで本がぶよぶよになって、ホンマに困りますわ(笑)」

 

 丸本店長にとって、書店は3つ目の職場。もともと本は好きだったので、いつかは書店で働きたいという思いがあり、29歳の時に水嶋書房に職を得た。好みは熱い思いがあふれている作品。関西出身ということもあって、宮本輝さんの作品や、最近では遠田潤子さんの作品もよく読むという。また小学校から高校まで野球少年だったのでスポーツものも好きで、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』も「涙(なみだ)ボタ本ぶよぶよ(笑)」作品だったとか。

 

 初めて読んだ池井戸作品は『空飛ぶタイヤ』。あまりにもおもしろかったので、まず身内に薦め、当時店長をつとめていたくずは駅店に来るお客さんに薦め、結果的に約1000冊、手売りした。

「小さい書店なのにすごく売れているので、出版社さんも驚いてました。そうしたら池井戸先生の事務所からご連絡をいただいて、先生がサイン本を送ってくださるようになった。まだ今ほど池井戸作品が広く知られているという時代ではありませんでしたが、店内にコーナーを作ったりして先生公認の「池井戸潤オフィシャルショップ」と呼ばせてもらってました。ですから『下町ロケット』で直木賞をとりはったときは、わがことのように嬉しかったですね」

 

『下町ロケット』に、佃航平の次のような台詞がある。

仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は、飯を食うためだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから、仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。

 丸本店長は、自分が感激した本をお客様に薦めて「本当におもしろかった」と喜んでもらうことや、池井戸さんの事務所から激励してもらったことは、まさに「二階部分」だと言う。

「世の中、思い通りにいかないし、しんどいことばかりじゃないですか。6月の大阪北部地震では、このあたりも震度6弱を観測しました。店の棚が動いて本が全部投げ出される店舗もあって、一時は大変な状態でした。生きていれば苦しいことも多いけれど、池井戸先生の作品を読むと、よし、がんばろうと元気が出る。そこが気持ちいいし、読む人は皆さん、勇気をもらえるんだと思います」

6月18日の大阪北部地震直後の水嶋書房くずはモール店(枚方市)店内の様子。書籍が床に散乱した。