大倉 番組がはじまった時、29歳も年下の女の子と会話なんてできるだろうか? と思ったの。杏ちゃんは15歳から仕事していて、そのぐらいから歴史ものをよく読んでるって言うじゃない。「これはとんでもない子とタッグを組まされたぞ」と怖じ気づいたんだよね。
杏 「本棚に新選組の本のコーナーがあります」とお話したら大倉さん、びっくりされていましたもんね。
大倉 あれから10年。自分では絶対に手に取らないような本を紹介してくれる杏ちゃんの話は、いつもすごく勉強になってますよ。
杏 私も同じです。大倉さんが読むのは海外文学とか政治関係とか、一生知らずに終わったかもしれない本ばかり。公私ともに世界中を回られているから見聞も広くて、どれも読みたくなります。
大倉 お互い本の魅力には触れるけど、書評しているわけじゃないんだよね。「こんなに面白い本があるよ」っていうことを伝えたいだけ。だから話が脱線して四方山話になることもよくある。
杏 それが楽しいんですよね。
大倉 番組中はもちろん素面だけど、お酒を飲みながら本の話をするときって、そこから話が広がっていくのが面白いじゃない? しかも四方山話って、自分の価値観とかライフスタイルとかベースになるものがないとできないから。杏ちゃんとはそういう会話を楽しめるのがいいんだよね。
杏 リスナーの読書傾向が、大倉派と杏派にわかれているのも興味深い。
大倉 杏派のほうが多いんだよ。
杏 大倉さんが選ぶマニアックな本も、すごく反響が大きいことがありますよね。『年月日』(閻 連科/著 白水社)を紹介したときは、読んでお便りをくださった方が10人以上いました。
大倉 著者の閻連科は中国では発禁になっている本も多い作家。どうしても紹介したかったから嬉しかったね。杏ちゃんは、日本史を軸にして世界を見ているでしょう。しかも、幕末なら幕末で、ひとつのテーマを深く掘り下げて読んでいく。
杏 10代半ばで海外に行ったとき、日本人としての帰属意識が強まったせいかもしれません。何百年も前の日本人の雑話を読んで、今と変わらない生活習慣や考え方を知ると、安心したり嬉しかったりするんです。
大倉 僕は仕事で8年間海外に住んだことがあるけど、日本の本を持っていってもほとんど読まなかった。訪れた土地の文化に早く馴染みたい、という気持ちが強いせいもあるかもしれない。
杏 その違いも面白いんですよね。この10年間で紹介した本は1000冊以上。『BOOK BAR お好みの本、あります。』に収めた番組の書き起こしは厳選した50冊ですが、巻末に入れた全ブックリストが好評みたいです。
大倉 自分が読んだ本が何冊あるか、チェックしている人も多いよね。
杏 本との出会いは、人との出会いに似ていると思うんですよ。読んで良かったと思える本に出会えるのは、そのタイミングでしか訪れなかったご縁かもしれない。本に書いてあったことが、後々になって「こういうことだったのか」と腑に落ちることがあるのも、人との関係性に似ている気がします。
大倉 本も人も、時間が経たないとわからないことってあるからね。読書ほど自由度高く想像を膨らませられるものって他にないと思う。そういう意味で僕は、役に立つ読書って苦手で、ハウツー本はほとんど紹介してないね。
杏 そこは共通していますね。読書って、読めばすぐに時代や国境を超えた別世界に没入できるところが一番の魅力だと思います。私は読書が日常の習慣のひとつで“普通”のことになっています。
大倉 僕も「読書が趣味?」って聞かれると返事に困るの。読書って、ご飯食べて寝るのと同じ生活の一部だからね。
取材・文 樺山美夏