中学時代、互いに小説を書いて読ませ合っていたクラスメートの女の子から、最初に名前を聞いたのがきっかけだった。
「私のこの小説、もしテーマ曲を選ぶとしたらZABADAKの『遠い音楽』しかないって思ってるんだよね」
私は初めて聞くアーティスト名だったにもかかわらず、「へえ」みたいな相槌を打ったことを覚えている。知らないものを知らないと素直に口に出せなかった私は、その後、自分でショップに行って、そのCDを買い──、彼らに魅了された。
ZABADAKには、男性ボーカルと女性ボーカルの曲がある。そのことがまず当時の私には新鮮で、そして、その歌声の両方がどちらも透明感を帯びて美しいことに感動した。衝撃だった、と言っていい。メロディーの繊細さ、圧巻の、他にない歌詞世界。ああ、これはあの子が自分の小説のテーマ曲にしたいと思うはずだよなぁ、と思った。
ZABADAKの曲には、圧倒的な奥行きがある。未来や過去、ファンタジーやSF、友情や恋、どんな世界観でも包み込んでしまえるような深さと厚み。だからいろんな人が、その曲に自分の作る世界観に寄り添ってほしいと望んでしまうような、そんな魅力がある。
自意識過剰な私は、クラスメートに教えてもらったにもかかわらずZABADAKを好きになったことをしばらくその子に打ち明けられず、内緒でCDを買い続け、自分のこの小説のテーマ曲は「休まない翼」で、こっちの小説は「五つの橋」で……と、勝手に夢想しながら、小説を書いていた。
自分の書く世界観に寄り添ってほしい──と思いつつ、実は、自分が彼らの世界観を借りて想像の中で遊ばせてもらっていたのだと、今になるとよくわかる。自分で自分の小説にテーマ曲を設定する、という行為そのものが今考えるとちょっと図々しくて、もうなんというか自意識が炸裂しているのだが、それでも私や彼女のような人はきっと珍しくなかったはずだ。自分自身が作家になってから、同業者と彼らの話で盛り上がることも本当に多かった。
おととしの2016年、あの透明感溢れる男性ボーカルを聴かせてくれていた吉良知彦さんの訃報に接した時には、CDを一日中、聴いていた。どれだけお礼を言っても足りない、と思いながら。
多くの人がプロアマ問わず、きっと自分の創作の傍らにおいてきたに違いないZABADAK。曲の数々がまるでタイムカプセルになっているかのように、聴くと、今も当時の自分が書いていた小説のあれこれを懐かしく、時にちょっと恥ずかしく、思い出す。