『世界経済入門』 [著]野口悠紀雄
本書は世界経済を定量的に理解し、その中で日本経済の地位を見直す。特に1990年代から急速な経済発展を遂げた中国、そして最近トランプ政権下で保護主義に傾く米国の状況を重視する。
世界名目GDPに対する中国の比率は2016年に149%に達し、日本の6・6%を上回る。貿易額や技術力の面でも、中国に比べ日本は停滞している。しかし日本は過去の貿易黒字などから生じた対外純資産が349兆円と、2位の中国(210兆円)を引き離して断然世界一。今後の日本は貿易立国ではなく、投資立国を目指すべきだという。
一方、米国はシリコンバレーを中心に活発な投資環境やイノベーション、伝統的な移民政策による人材育成などが功を奏し、グーグルやアマゾンなど高度IT産業への構造転換に成功した。しかしトランプ政権は今、国内製造業の復活を掲げ、中国など外国製品に大幅関税をかける貿易制裁措置を発動。また、厳しい移民制限へと舵を切った。
これによる攪乱効果は不明だが、米国は高度サービス産業を中心に今後も経済成長を続け、世界経済のリーダーであり続けるという。全体的に分かり易い内容だが、想定内の展望という感も若干ある。=朝日新聞2018年9月15日掲載