病を生きる人々へのフィールドワークに基づく研究を行ってきた人類学者の磯野真穂氏が、我々にとって永遠の「他者」である病と死を巡る考察をまとめた一冊。
前半は、私たちが遭遇する病や今回のパンデミックがどのように経験されるのかを解き明かしていく。興味深いのは、私たちの病をめぐる感情や感覚なども、実は様々な科学的言説や比喩を通じて作られているということだ。後半は、前著『急に具合が悪くなる』で宮野真生子氏と繰り広げた議論が更に深められ、生きることと時間との関係について迫真の考察が展開される。長く生きるとはどういうことなのか、深い問いと思索に唸(うな)らされる。
ユニークな起業家や企業人と話していると、大病や大きな逆境を経験した後に新たな仕事人生を切り開いたエピソードを耳にすることが少なくない。一体なぜか、この本からはその理由が垣間見える。
それは、病や逆境はそれまでの仕事やビジネスにおいて当たり前だと信じられていたことが相対化される時だからだろう。「今ここ」からどのように仕事の意味を新たに紡ぐのか、そのもがきの過程をどう生きるかのヒントが得られる。=朝日新聞2022年3月5日掲載