独立系の音楽レーベル、カクバリズムを立ち上げて16年。「好きなことを仕事にしたい」という人に向け、自分の仕事を振り返りながら、働くことについての本を書いた。
仙台から進学で上京、ライブハウスで働き、イベントを主催するなど音楽にのめり込んだ。大学卒業後も就職せず、中古レコード店でアルバイトしながら、カクバリズムを設立した。
所属アーティストと、センスはいいけどおしゃれすぎない、新しいのに懐かしい、そんな「カクバリズムっぽさ」を作り上げてきた。始まりは、録音も宣伝も手探りだったインストバンドYOUR SONG IS GOOD。リーダーの星野源がソロでも成功したSAKEROCKは、2000年代の音楽シーンで存在感を発揮。二階堂和美は高畑勲監督「かぐや姫の物語」で主題歌を担当し、ceroは昨年、雑誌「ユリイカ」で特集が組まれた。
「好きではじめたことがたまたまうまく進んでいって、徐々に自分がイメージしていた『仕事』に近いものになっていった」
その過程では、「才能がない」と自身のバンド活動を諦めたり、所属バンドがメジャーの壁にぶつかったり。SAKEROCKの解散や星野の移籍もあった。そのときどきに、どうすれば自分たちの音楽が届けられるか考え、変化してきた。「自分のこだわりも、それが当たり前になると可能性を狭めてしまうと疑うようになった。感性も年をとる。いまは、自分で新しい音楽を判断することもやめてみようかと思って」
インタビューの最中にも、いったん話してから、「いや、違うな」と考え直す。「自己分析できてるようで、出来てないんですよ。ずっと迷ってるし、矛盾ばっかり」。ただ、「最高の音楽に触れていたいというのは変わらない」と屈託ない。こうやって、仲間たちと一緒に音楽を作ってきたのだろう。
本はカクバリズムを知らない人に読んで欲しいという。「こうすればいいとは書いてない。でも必死にもがいてきたことを伝えれば、何か役に立つんじゃないかって」。好きなことを仕事にする大変さと、それを上回る喜びが詰まっている。(文・滝沢文那 写真・倉田貴志)=朝日新聞2018年10月6日掲載
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