名作は自由に楽しむ私の教科書
デビュー作の児童書『いやいやえん』を書いた時に、編集してくださった石井桃子さんが、モームのこの本(西川正身訳)の前書きを読みなさいとおっしゃったの。「小説とは何か」と題して書いている。すぐれた小説の特質を論じたあと、小説は人を楽しませる芸術だから、読者も楽しんで読めるのでなければ何の価値もない、何が楽しく読めるかわかるのは読者本人だけと言っている。
10歳の年に戦争が終わって、本しか楽しみがない世代だから、モームおすすめのバルザックやトルストイも読みましたよ。一つ一つが面白かった。外国のことも小説で知ったわね。話の細かい筋より、読書は読んでいる最中に次どうなるかと面白ければいいの。個人的な楽しみだから、どんな読み方をしようと自由でしょ。
石井さんは、子供の本の書き方なんて教わってわかるもんじゃないから、図書館にある本を全部読んで、そこからつかみなさいって、おっしゃった。でも私は保育士の仕事が優先で書いていたから、「あなたは忙しいから、時間を無駄遣いしないように、私が読むべき本を教えてあげる」とも言われた。それで坂本義和の『人間と国家』(上下巻・岩波新書)も読んで勉強になったわ。私にとって新書や文庫は買いやすかったし、教科書のようなものだったのよね。(聞き手・久田貴志子、写真・村上健)=朝日新聞2018年10月6日掲載