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信長が求めた理想の組織、現代と重なる視点で 垣根涼介さん「信長の原理」

垣根涼介さん=横浜市、倉田貴志撮影

 織田信長の軍団を、「働きアリの法則」から見つめ直すと……。垣根涼介さんの『信長の原理』(KADOKAWA)は、歴史小説で幾度となく描かれてきた信長の生き方を、斬新な視点から示す。効率を極限まで突き詰めたとき、組織がどんな状況に陥っていくか。浮かびあがる世界観は、現代人に差す影と重なる。
 書き出しで、少年時代の信長がアリの行列を飽きずに見つづける場面が描かれる。やがて、働きもの、平均的なもの、怠けものが2・6・2という比率と気づく。
 いくら人材の登用に躍起になっても2割しか狙い通りに機能しない。信長はそんな法則にもとづき、効率をひたすら追い、理想の組織を求めていく。その過程で、ひときわ厚遇を受けるのが明智光秀だ。
 「信長の組織運営は、現代のグローバル企業のようなもので、人材の入れ替わりは激しく、上に上がっても競争はつきまとう」と垣根さんはいう。
 上り坂を進む信長に潜む危うさは、彼に死に追い込まれた松永久秀の視点で、こう描かれる。
 〈だからこそ、あの男の世界ではすべてが膨張し、次に疲弊していく〉
 天下統一が視野に入り、信長は改めて気がつく。光秀、羽柴秀吉、柴田勝家ら5人の重臣から、自ら落ちていく者か裏切り者が出るだろう……。覇権を争う武将を描きながら合戦の場面は少なく、登場人物の心理描写によって、組織のありようを考えさせられる展開だ。
 信長の軍団と現代の厳しい競争社会を重ねあわせ、「ふるい落とされる人だけでなく、残った人もやがて不幸になる。社長になっても株主にギャンギャン言われる。そんなことでいいのでしょうか」と垣根さん。働きものとされる人以外の人を受け入れても、そこそこ利潤が出るようなシステムをつくる会社の方がまっとうではないかな、と考えている。
 前作『室町無頼』では、応仁の乱前夜の京の都を舞台に豊かになっていく社会と、ひろがる格差という現代に通じる状況を描いた。
 「平成も終わろうとしているこの時代に、夢のような出世物語は書けません」
 超効率主義の時代、と現代を見据えている。人口が減り、売り上げが落ち、市場規模がシュリンク(縮小)していく社会だ。
 「若い世代の人は、ブランドや格好良さといった表層で職業を選んでしまうこともあると思いますが、時代の移り変わりは激しい。自分なりの興味があり、それを仕事に結びつけられると強いですよ」。転職し、旅行会社で仕事に打ち込んだ来し方をふまえつつ、そう言った。(木元健二)=朝日新聞2018年10月27日掲載