繰り返し読む漫画が何作品かある。
「ストーリーを知ってるから面白くないのでは?」
そう指摘されそうだが、私の場合、10年空けることを自分に課しているので初読みのときと変わらない感興を得ながら食いつくように読んでいる。なにしろ何度でも読みたい作品だ。できるだけ新鮮な気持ちで読み直したいから必死に10年我慢する。それより早く読みたくなっても「我慢我慢」と心のなかで唱えながら10年待つ。
たとえば『エースをねらえ!』(山本鈴美香)や『あしたのジョー』(梶原一騎&ちばてつや)。『タッチ』(あだち充)や『SLAM DUNK』(井上雄彦)。『ドラゴンボール』(鳥山明)や『キャンディ♡キャンディ』(水木杏子&いがらしゆみこ)。手塚治虫作品であれば『火の鳥』や『奇子(あやこ)』『陽だまりの樹』などがそうである。
今回はこのなかで『タッチ』と『SLAM DUNK』について語りたい。じつは昨年末、両作品をそれぞれ我慢できずに9年ぶりと8年ぶりに読んで、新たな感動を得、新たな発見をしたからだ。10年ぶりではなくなぜ9年ぶりなのか。なぜ8年ぶりなのか。なぜ我慢できなかったのか。
理由は連載である。北海道大学柔道部時代をモチーフとした自伝的小説の続編『七帝柔道記Ⅱ』が「小説野性時代」連載途中で行き詰まってしまって書けなくなってしまったからだ。主人公の“増田君”に好きな女性ができ、付き合い始めたところで、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。締め切りは迫る。苦しみ抜いて本棚から抜き出したのが『タッチ』と『SLAM DUNK』だ。野球漫画でありバスケット漫画ではあるが、そこに恋愛要素やコメディタッチなやりとりも前面に出てくる緩めの青春漫画のように記憶していた。
結果、どうだったのか。私の記憶が間違っていた。『タッチ』も『SLAM DUNK』も、いわゆる学園漫画などではない。試合シーンを中心軸に描いたど真ん中のスポーツ漫画であった。この2作品が読者から共感を得たのは、主人公の上杉達也や桜木花道が面白いやつだからではない。恋愛心にどきどきするからでもない。クスッと笑えるシーンが多いからでもない。上杉達也のど真ん中の速球ストレートの勝負に感動するからである。桜木花道が自身の尊厳をかけて打つシュートに感動するからである。
運動部経験者は思い出してほしい。中学時代、高校時代、大学時代。恋愛や友情、ファッションや食べ物、定期テストやゲームセンターなど、運動部員にとって添え物でしかなかった。青春の時間すべてをかけて最後の引退試合へと収斂させていくのが学校スポーツである。『タッチ』も『SLAM DUNK』も最後の試合シーンこそが華である。だからこそ両作品は王道を往くスポーツ漫画として何十年も読者の心を強く揺さぶり続けるのだ。『七帝柔道記Ⅱ』が前作から11年も空けながら今回ようやく完成させることができたのは、すべて『タッチ』と『SLAM DUNK』のおかげであった。