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行ってみる 柴崎友香

 シャルジャ、という国にいる。ブックフェアに招待されて、行ったことがないところはとりあえず行ってみようと思って、来た。アラブ首長国連邦の一つで、お隣のドバイのベッドタウンとして開発が進んでいる。滞在するのは海辺のリゾートホテル。周囲は人工ビーチを整備中で、工事現場の中にぽつんとお城みたいなホテルがある。案内された部屋は、半地下で、ベランダの前を中庭のプールでくつろぐ欧州からの観光客が半裸で行き交う。海が一望であろう高層階を見上げると羨(うらや)ましくもあったが、招待していただいたんだし、わたしの部屋も椅子に立てば海が見えないこともないし、部屋自体は素敵(すてき)だし。と、ブックフェアを見学したりプールの歓声を聞きながら部屋で仕事して、滞在もあと一日になった夜。
 招かれざる客がありまして(わたし含め苦手な方が多いと思うので、察してください)、フロントに連絡したら、部屋を替えるから十五分で荷物をまとめて、と電話が。慌てて片付け、案内された先は……。三方向ガラス張りのオーシャンビュー(でも夜中で真っ暗)。ひろーい、すごーい、とよろこぶも、最終日は午前も午後もイベントがあり、翌朝まだ暗いうちに出て帰国。数時間だけでもお金持ち気分を味わえてよかったかな。
 国内外問わず、どこかへ行ける仕事はできるだけ受ける。いつもと違う場所は、いくらでも発見がある。シャルジャはどれだけ暑いかと覚悟してきたら、秋で夜は涼しいくらいだし、空にはうろこ雲。様々な国から出稼ぎの人が多く、訪問した高校も様々なルーツの子がいた。ブックフェアは信じられないくらい大規模。お酒がほんとうにまったくない。でもなにより印象的だったのは、マクドやスタバや日本で見慣れたチェーン店やブランドがそこら中にあり、高校生は(校長先生も)インスタグラムが大好きで、世界は今は、距離とは別のつながりかたをしていて、世界中がその新しい仕組みについていってるようなついていけてないような、そんな感じだということ。=朝日新聞2018年11月12日掲載