「隧道(ずいどう)LOVEなわたし」「どんな人が通ったのだろうかと想像するとうきうき」。果てはループを描いて峠に通じる廃道が「いじらしい」とまで。本書には廃道歩きの軽快な楽しさや愛があふれているが、その境地に至るには、大変な困難をかいくぐらなければいけない。
藪(やぶ)の中に分け入ったり、崖を登ったりするのは序の口だ。コウモリが乱舞する真っ暗な隧道では足元はコウモリのふんとたまった水でぬかるみ、しばらくとれない臭いがつくらしい。クマに出合ったことも。まさに「死を覚悟」する危険である。問題は物理的なことにとどまらない。恋人から「危険だからやめてほしい」と言われて、恋人より廃道を選んだというのだ。
どうしてそこまでのめりこむのか。何が魅力なのか。著者が興味を寄せる廃道は、明治以降に馬車や車のために建設され、その後、新道の建設や自然災害などで使われなくなり、うち捨てられた道だ。
きっかけは社会人になって間もないころ、ドライブ先を探していて、たまたま見つけた廃道サイトと秋田県の生保内(おぼない)手押し軌道の隧道の記事だった。無性に気になりすぐに東京から車で10時間かけて訪れ、ひっそりとたたずむ遺構のとりこになってしまった。「村や家族のために命がけで隧道を作った人、道ばたの石仏に無事を祈りながら通った人。人々の様子を想像しながら廃道を歩くと、廃道の物語の映画を見るようです」
その物語は、国土地理院で古い地形図を購入して新旧見比べ、古書店や地方自治体で歴史書などを読み込んで浮かび上がってくる。とことん一次資料に当たらないと気が済まず、百貨店で働いたお給料は、本と地形図とガソリンに消えていくという。休日はもちろん廃道のためにある。「明治の廃道が朽ちる前に歩ける最後の世代かもしれない。全力でやりたい」と全国を走り回って十数年になる。
廃道巡りは静かなブームで、著者と行くバスツアーが開催されるとすぐに満席になる。うれしい半面「案内板や手すりが設置された所もあって、往時の情緒が失われるのは残念」と最近気になっている。(文・久田貴志子 写真・篠田英美)=朝日新聞2018年12月1日掲載
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