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黒衣だった工場 前面に出して売る 「ものがたりのあるものづくり」

『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』 [著]山田敏夫

 急激に衰退する日本の繊維産業。衣料品の国産比率は今や2%にすぎないという。この状況を危惧した著者は、6年前メイド・イン・ジャパンにこだわったブランド「ファクトリエ」を立ち上げた。その創業から今日までの軌跡を綴(つづ)ったのが本書だ。
 ファクトリエでは国内の工場が開発した高品質の定番商品を、工場が希望する価格で売る。従来は黒衣だった工場の名を前面に出し、つくり手の思いやクラフトマンシップに共感した人に買ってもらう戦略だ。大量の売れ残りや低価格競争などアパレル業界の歪(ひず)みが問題となるなか、時宜を得たビジネスといえよう。
 前例がないだけに壁にぶつかることも多いが、著者はひるまない。提携を求めて訪ねた工場は600カ所、書いた手紙は1千通以上。不器用で無力だから愚直に努力したと謙遜するものの、その行動力は見上げたもの。「特別な才能や資産がなくても、世界を変えるための行動は始められる」と読者を鼓舞する。
 とはいえ著者の才は明らかに“特別”だ。淡々とした語り口のせいか、彼の熱量が行間からあまり伝わってこないのは残念だが、「新しい当たり前」をつくるべく奮闘する姿は実に頼もしい。=朝日新聞2018年12月8日掲載