詩人で批評家の大岡信さんが本紙で連載した詩歌コラム「折々のうた」を10歳でも読めるように再編集した『こども「折々のうた」100』(小学館)が刊行された。
大岡さんは2017年4月に死去したが、その仕事を見つめ直す動きが続いている。昨年は谷川俊太郎さんとの対談集『詩の誕生』が岩波文庫から刊行された。大岡信研究会も活動している。
『こども「折々のうた」100』は同研究会の運営委員で、フリーの編集者の飛岡光枝さんが全6762回の連載から短歌・俳句を論じた100編を選んだ。俳人の長谷川櫂(かい)さんが監修し、元の短歌・俳句の現代語訳をつけた。
子ども向けだが、恋愛や死を扱った作品をとりあげた回も積極的に収録した。
例えば、大伴坂上郎女の〈夏の野の繁(しげ)みに咲ける姫百合(ひめゆり)の知らえぬ恋は苦しきものそ〉の歌。大岡さんは〈夏草の繁みに隠れて咲く姫百合に、思いが相手に伝わらずひそかに苦しんでいる女の恋心を託して可憐(かれん)〉と明快に論じている。
死を扱った飯田蛇笏の句〈なきがらや秋風かよふ鼻の穴〉については、こう書いた。〈ほとんど非情酷薄に近い凝視と描写だが、なまじの言葉の介在を許さない死の厳粛と哀傷を言い表すためには、このような思いきった省略と強調が必要だったのである〉
長谷川さんは「詩歌を読むことで、自分たちが生きる、この世界とは違う世界があることを知ることができる。悩みを抱えている子どもたちにもぜひ読んで欲しい」と話している。(赤田康和)=朝日新聞2019年3月6日掲載
編集部一押し!
-
文芸時評 親と子、赤いつながり とぐろ巻く暴力、回帰する声 都甲幸治〈朝日新聞文芸時評25年10月〉 都甲幸治
-
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第31回) 朝井リョウ分析の精度に慄然とする「イン・ザ・メガチャーチ」 鴻巣友季子
-
-
新作映画、もっと楽しむ 映画「爆弾」伊藤沙莉さんインタビュー 「それが果たして正義なのか」謎の予言男は問い続ける 根津香菜子
-
一穂ミチの日々漫画 サイトウマド「怪獣を解剖する」 生々しく刺さる問題意識(第5回) 一穂ミチ
-
インタビュー 朝宮運河さん「現代ホラー小説を知るための100冊」「怖い話 名著88」インタビュー ホラー小説文化のバトンをつなぐ 加藤修
-
トピック ネルケ無方×藤田一照×永井均トークイベント「仏教と哲学のあいだで考えたこと」 12月19日に開催 好書好日編集部
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版