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ひとり登山も悪くない 湊かなえ

 来週はいよいよ雪山、八ケ岳の赤岳に登る予定です。
 このために始めたトレーニング、プランクもスクワットも、初日は一分間続けるのもやっとで、終わると吐きそうになっていたのに、今ではそれらをミックスしたメニューを一時間続けても、筋肉痛知らず、疲れ知らずです。
 あとは、天候に恵まれることを祈るばかり……。
 前回の登山は昨年九月末でした。毎年少しずつ難度を上げていき、ついに念願の大キレット(槍ケ岳と北穂高岳を結ぶ稜線〈りょうせん〉)に挑戦する予定でしたが、雨マーク続きの天気予報で中止が決まり、ガッカリ、ガッカリ。初日は晴れる予定なのにな、上高地行きのバスも取っているのにな、おやつも買ったのにな、と山への未練はたらたらで、一人で日帰り登山をすることにしました。
 目的地は焼岳、北アルプス唯一の活火山です。初の単独行となるため、夜行バスに揺られながらドキドキしていましたが、薄暗い中、登山口に向かうと、思った以上に登山者の姿がありました。
 徐々に夜が明け、天気は快晴、標高が上がるにつれて緑色から紅葉へと景色が変わっていきます。そして、硫黄の臭いがきつくなり、山頂が見えてきました。噴煙が上がっています。
 ああ、来てよかった。しかし、体はバテバテで、頂上は見えているのになかなか近付いてきません。水筒に入れてきた大好きなコーヒーで、ひと休み、ふた休みです。すると、湊さんですか? と声をかけてくれる方がちらほら。単独の女性や初心者の方も多く、登山を始めたきっかけなど、貴重な話をうかがうことができました。
 一人だったので、たくさんの方々が声をかけてくれたのだと思います。山頂では、剱岳ですれ違ったおじさんとの再会もあり、本当に来てよかったな、予定変更も悪くないな、などと感激したのですが、さすがに雪山での単独は難しく、晴れを祈る日々が続いています。=朝日新聞2019年3月18日掲載