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「生まれ変わり」 無力感をSF的想像力で昇華

評者: 宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月23日
生まれ変わり (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 著者:ケン・リュウ 出版社:早川書房 ジャンル:小説

価格:2484円
ISBN: 9784153350434
発売⽇: 2019/02/20
サイズ: 19cm/558p

異星人と共存することになった人類の葛藤を描く表題作ほか、殺し屋として育てられた唐の娘の物語「隠娘」など、全20篇を収録する。「紙の動物園」「母の記憶に」につづく、ケン・リ…

生まれ変わり [著]ケン・リュウ

 ケン・リュウにはユーモラスな作品もないわけではないが、マイノリティとして生きることをテーマに据えた短編が多い。本作も、難民、差別、いじめ、DVといった問題への人々の抵抗や無関心を、SF的想像力で昇華させた秀作ぞろいだ。これらの物語に通底するのは、世界にはびこる不条理への無力感である。
 靴工場で1日16時間労働を強要されるベトナム人女性の悲惨で不思議な運命を描いた「ランニング・シューズ」。宇宙から一度に453機もやってきた、攻撃もできず交信もできない円筒形の謎の物体を、タイにおける人身売買を止めさせるために利用しようとする「訪問者」。学校でいじめられている娘のもとに、死んだ父親らしき何者かから絵文字のメッセージが届く「神々は鎖に繋がれてはいない」。ビルマ民族の兵士に虐殺される漢民族系難民の悲惨さをVR装置のついた没入スーツで疑似体験した主人公が、ブロックチェーン技術を利用して彼らを直接救援する仕組みを作ろうとする「ビザンチン・エンパシー」。
 正論を掲げるだけでは何も解決しない世界。主人公たちは、ときに現実的な解決策を見出そうとあがく。しかし同じ思いを共有しながら解決の手立てで合意することができなかったり、超越的な第三者に頼ることしかできなかったりと、作者は自らの手で状況を覆すことの困難さをそこかしこに滲ませる。
 マイノリティとして生きるとはどういうことか。日本経済もどんどん世界から置いていかれ、近い将来外国人労働者を受け入れる側から労働者として外国に出て行く側になるのか、なんて神妙な気持ちで本作を読むと、自分は今までいかにのん気でお気楽に生きてきたことかと恥じ入るだろう。
 これまで多くの日本人が無縁を装い、見ないふりをしてきたその痛みやままならなさが、じわじわと胸に迫ってくる。
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Ken Liu 76年、中国生まれ。作家。米国在住。著書に『紙の動物園』など。中国SFの翻訳や紹介も行う。