最近、絵本の概念が変わりつつあるのか。大判で、短い文章で、分かりやすいストーリーというような定番の絵本と、本書は一線を画している。まず、小さい。一辺が約16センチ弱の正方形である。一方、紙は厚い。というか、1枚の厚さは5ミリほどで、もはや「板」である。
内容は、タイトル通り、ひたすら「顔」。ほほえみ顔の鼻の穴に指をかけて引き上げれば、大口を開けた笑い顔に。太い眉を八の字にすれば「ショボーン」だが、上げれば「キリッ」に。舌を出した顔は、さらに舌を引っ張ると、目をつぶったおちゃめな顔に。
動かしてみて、感心した。この大きさと紙の厚さのバランスが、実に扱いやすいのだ。ベビー用品満載のトートバッグにひょいっと入り、楽々取り出して操作可能なサイズ感。しかも紙が厚いので、折れたり曲がったりしない。
ふと、息子が赤ん坊だった10年前を思い出す。このような「玩具型絵本」に類似のものはあったが、これほど紙が分厚くはなく、息子が破ったりしゃぶったりして、あっという間に破壊していた。そうか! 赤ん坊相手には、この分厚さが必要だったのだ……!
本屋の絵本コーナーでも、この種の本は増加中。考えられるのは、移動中などに子どもをあやすには、最適な作りだということである。近年は出産後就業継続する女性も増えたが、保育所への送迎など、子連れ移動はまだまだ大変だ。ぐずられたときの針のむしろに座るような感覚は、私も覚えがある。
赤ちゃんは、人間の顔、とりわけ表情の動きに反応する。息子も「いないいないばあ」は大好きだったが、電車の中でずっと「いないいないばあ」し続けるのは大変である。なるほど、本書は「いないいないばあ」の代わりなのかもしれない。最後の「顔」はまぶたを下げて「おやすみなさい」なのだが、「おとなしくしてほしい」という、親の切実な願いに思えた。
◇
ほるぷ出版・918円=5刷25万部。2017年4月刊行。版元は「表情の変化だけの本にしたのがよかった。赤ちゃんが友だちと遊ぶときのような笑顔になる、という反響があります」。
編集部一押し!
- インタビュー 奥窪優木さん「転売ヤー」インタビュー 当事者たちに密着取材、時代映すダイナミックな世界描く 吉川明子
-
- 文芸時評 記憶との再会 平行世界を生きる自分たち 古川日出男〈朝日新聞文芸時評24年11月〉 古川日出男
-
- インタビュー 児童書の名作「ワンダー」のもう一つの物語「ホワイトバード」が映画化 原作翻訳者・中井はるのさんインタビュー 加治佐志津
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 絡みつく恐怖に震える、怨念・祟り系ホラー長編の収穫3作 朝宮運河
- トピック 「積ん読の本」あの作家・漫画家の本棚は? 話題の読書本を5名様にプレゼント 好書好日編集部
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社