中国出身の俳人・董振華(とうしんか)さん(46)が4冊目の句集『聊楽(りょうらく)』を発表した。23年前に留学生として来日中、金子兜太さんに師事。昨年亡くなった金子さんが「修辞を必要以上に凝らして書く俳句より、はるかに平明で、魅力を覚える」と序文を寄せている。
中国では五七五の十七文字の漢字を使って韻を踏み、季語も盛りこんだ「漢俳」も作られているが、董さんの俳句はもちろん日本語。句集では全ての句に、自ら訳した漢詩や漢俳が添えられている。
春耕や郷思の影に月の光(かげ)
思郷影里月光照
又逢一年春耕到
春隣黄河の音に我の音
春天已走近
黄河載着我心声
滔滔向東奔
董さんは日本在住。日本語で考えて、日本語の俳句を詠む。「学生時代から同時通訳の仕事をして鍛えられたから、いつごろから日本語で考えるようになったかわからない」と言い、今では五七五の日本語のリズムに自然な心地よさを感じるという。
「俳句は短くて全部は言い切らない面白さがある。あいまいさを残す余裕もありますね」。自身の俳句には、幼い頃に祖母から学んだ漢詩の影響もあるという。「漢詩の中で情景を表す言葉からイメージが広がることもあります」
「俳句の国際化」は各国の言語で詠まれる俳句の普及を指すことが多い。日本語を母語としない詠み手による本格的な日本語の俳句は、まだ少ない。日本語表現の新たな可能性が開かれることを期待したい。(樋口大二)=朝日新聞2019年5月8日掲載
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