ずっと憧れていて実現しないものに「身軽」がある。小さい鞄(かばん)、究極には手ぶらで歩きたい。外出の際の荷物を少なくする努力や試みは何度もしてきたが、あまり減らない。
心配性で、あれも持っておいたほうが、これもないと困るんじゃないか、とあれこれ入れてしまうのが原因の一つだとはわかっている。旅行の荷物などは経験を積んで以前よりはすっきりしたのだが、それでも「身軽」の域にはほど遠い。
友人の作家たちも荷物が重めの人が多いように思う。本を持ち歩くことが多くて重さに耐性があるのか、鞄の見た目に比してずっしり重い鞄になりがちなのかもしれない。友人の鞄を持ち上げてみてびっくりすることがある。私も以前屋外で写真撮影のある仕事の時、傍らにいたスタッフの方が「鞄持っときますね」と私のトートバッグを手に取った瞬間に「重い! 何が入ってるんですか!? 砂?」と言ったのには笑ってしまった。もちろん中身は砂ではなく、立ち寄った書店で買った本が十冊ほど入っていたのだった。
本や印刷物など、まとまった紙は重い。私は外で原稿を書くことはないからノートパソコンは持ち歩かないが、急ぎで修正などをチェックしなければならない時期はタブレットは持っていく。なにがそんなに重いんだろうかと鞄から出し入れしてみるが、一つずつはそれほどでなくても、まとまるとかなり重くなるようだ。それで最近は外出の鞄の選択肢がリュックしかなくなっている。電車で周りを見てもリュック率が上がっているのは、パソコンなど電子機器を仕事で持ち歩くことが増えてるからやろなあ、と実感する。
さらにこの暑さで、折りたたみの日傘とマグボトルも必須になってしまった。できるだけ軽いものを探したが、マグボトルに水を入れればその分重い。
小さな鞄一つでどこへでも出かける姿を思い描いてきたが、実際は大きく重くなる鞄を背負って歩いていて、いっそう暑い。=朝日新聞2025年7月23日掲載