激しい学生運動に社会が揺れ動いた時代だった。安田講堂事件から約4カ月後の1969年5月13日、作家・三島由紀夫が東大全共闘の学生を相手に繰り広げた討論会。緊迫感に包まれた様子を撮影したニュース映像の原盤が、TBSの倉庫から見つかった。同社はデジタル化し、短編動画をネット配信している。
東大駒場キャンパス(東京都目黒区)の900番教室。右と左。思想的にかけ離れていると思われたが、単身乗り込んだ三島は千人を超える学生を前に熱く語った。
「私は今までどうしても日本の知識人というものが、思想というものに力があって、それだけで人間の上に君臨しているという形が嫌いで嫌いでたまらなかった」
「全学連の諸君がやったことの全部は肯定しないけれども、ある日本の大正教養主義から来た、知識人のうぬぼれというものの鼻をたたき割ったという功績は絶対に認めます」
討論会を撮影した映像の一部はこれまでにも報じられたことはあったが、今年3月、16ミリフィルムの原盤2巻(計1時間15分20秒)をTBSのプロデューサーが見つけた。
中央大の市川哲夫・特任教授(放送文化論)は「『歴史にやられたい』と三島は自決を暗示するようなことも言っている。あの時代の高揚感が立ちのぼってくるような映像だ。活字では伝わらない貴重な文化遺産ではないか」と話している。(編集委員・小泉信一)=朝日新聞2019年6月12日掲載
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