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「安楽死を遂げた日本人」書評 目の前で行われた死の意味を問う

評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月22日
安楽死を遂げた日本人 著者:宮下洋一 出版社:小学館 ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ

ISBN: 9784093897822
発売⽇: 2019/06/05
サイズ: 20cm/349p

安楽死を遂げた日本人 [著]宮下洋一

 安楽死が認められた国で主体的に死を選ぶ人々を訪ね歩いた『安楽死を遂げるまで』の続編は、その本を読んだ多系統萎縮症を罹患した日本人女性から、「安楽死をスイスにて行うつもりです」とのメールを受け取るところから動き出す。
 スイスにある自殺幇助団体のもとで旅立ちを迎えるまでの、当人や家族の葛藤を中心に描くが、その葛藤は著者自身にも伝播する。「死期を早める行為を実現させたのは、私かもしれない」。女性は、あくまでも「個人的な死」であり、同じ難病を持つ人々の希望を奪わないでほしいと告げる。
 安楽死に向かう人の感情をただ受け止めることはせず、自殺幇助の曖昧さに悩み、それでも目の前で行われた死の意味を問う。生き続けることの恐怖を煽る風土に加担する本ではない。答えの出ない問い、他者が答えを出してはいけない問いが読後の体に残る。「絶対と呼べる正当性を見出せられない」という、困惑したままの帰着が重い。