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寺島しのぶさん主演ドラマ「湊かなえ_ポイズンドーター・ホーリーマザー」 母娘が抱える「毒」をえぐる

文:中津海麻子、写真:佐々木孝憲、ヘアメイク:片桐直樹(EFFECTOR)、スタイリスト:中井綾子(crepe)

 幼いころ父を亡くした藤吉弓香(足立梨花)は、母・佳香(寺島しのぶ)に女手一つで育てられた。常に自分を管理し束縛する母から逃れるように故郷を飛び出し、反対を押し切って女優に。ところが、離れてもなお母によって恋人と別れさせられ、大切な仕事も失う。ついに弓香は、母を「毒親」としてマスコミに告発。一方で、佳香を知る人たちの目には、毒親どころか子どもを深く愛する良き母親、むしろ「聖母」のように映っていて……。

 「娘の弓香の側、母の佳香の側、どちらから見るかによって物語がまったく違って見えるドラマだと思います」と寺島さん。確かに、「娘を支配する母親」「母に逆らえずに苦しむ娘」という構図が突然ガラリと覆され、まるで異なる光景が見えてくる。寺島さんはこう続ける。「わかりやすい物語や、スカッとする勧善懲悪もそれはそれでいいのですが、見る人が疑問に思ったり深く考えたりするドラマがあってもいい。そう私は思うんです」

 清楚な役柄が多い弓香は、女優としてステップアップするため過激なラブシーンのあるドラマに挑戦しようとする。しかし、いつの間にか母は脚本をチェックし、非難めいたことを口にする。このシーンに寺島さんは「デジャブかと思った」。

 16年前、寺島さんは映画「赤目四十八瀧心中未遂」での演技が高く評価され、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ多くの映画賞を受賞した。大胆なラブシーンがあったこともあり、母で女優の富司純子さんは出演に猛反対したという。

 「過激な作品へのオファーを受けた弓香に、『断りなさい』『こんな下品なもの』と迫るシーンがあるのですが、同じようなこと言われたことがあるな、と演じながら思い出していました。もしかしたらお母さんは『毒親』だったの? と」

 親の言うことを素直に聞く弟(歌舞伎役者の尾上菊之助さん)と違い、「私は聞き分けが悪く反発ばかりしていた」と寺島さん。「そういう意味では私が『毒娘』だったのかも」と笑うが、自らが母親になったことで親の気持ちも理解できるようになったという。

 「母は私やうちの家族が悪く言われることを気にしていたんだと思います。私は、息子がやりたいことは全面的に応援するつもりです。とはいえ、息子が悪く言われるのはイヤ。世間の常識などは親が教えることなので、言うべきことは言わなきゃいけない。そういう思いもあって母は厳しかったんだろうなと、今ならわかる部分もあります」

 弓香から「毒親」と糾弾され、子離れを決意する佳香。しかし、ドラマでは娘への愛情がゆえの狂気も見せる。最初に脚本を読んだとき、そのシーンの描写に寺島さんは「やりすぎでは?」と感じたものの、実際に演じてみて「強く納得した」と振り返る。「うちの子に何かしたら絶対に許さない、自分は悪者になってもいい、という動物的な本能と感情が噴き出す瞬間があった。それは自分でも驚きました」

 今回、寺島さんはあえて原作は読まずに撮影に臨んだという。理由は「原作にかなうものはないから」。こう言葉をつなぐ。「本を読んだときの人間の想像力は、ドラマや映画の映像よりもはるかに壮大。想像って自由だし、目の前にないものを想像することが読書の楽しさだと思うんです。素晴らしい原作からいい台本が生まれるのであれば、私は原作とは『別物』としてのいいものを作りたいです」

 しかし、1冊の本に綴られた物語を限られた時間の中で表現するのは難しい。設定やシーンを抜粋したり変えたりすることもある。「もしわかりにくい部分があるならば、そこを埋める演技をすることが役者の仕事。そのために原作に向き合うことはあります」と寺島さん。実際、村上春樹さんの「海辺のカフカ」の舞台に立つに当たっては、原作を読んで臨んだという。

 「今回のドラマは、脚本を読んだ時点で作品のメッセージをつかむことができた。監督やスタッフとともに悩み、多くの意見を出し合った結果、さまざまな人の心に響く作品に仕上がったと思います」と寺島さんは自信を見せる。

 家族を取り巻くさまざまな問題が大きく取り沙汰される今、母と娘の「毒」をエグいまでに描いた今作。あなたの目にはどう映るだろうか。