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ドラマ「事件」主演・椎名桔平さんインタビュー 「人は間違いを犯すけど、それを乗り越えて進むしかない」

椎名桔平さん=斎藤卓行撮影

法廷は舞台で芝居するような感覚

――『事件』は過去に映画化やドラマ化もされていますが、今回演じる上でどこを意識しましたか?

 1年ぐらい前にこのドラマのお話を頂いて原作も読みましたが、今回は全くと言っていいほど別物だと考えて撮影に入りました。というのも、60年近く前に書かれた原作をはじめ、その後ドラマや映画化した作品も随分前のことなので、現代とは時代背景が違いすぎるんですよね。今回の脚本を初めて読んだ時に、この『事件』という緻密に構成された名作を、裁判員制度の導入や少年法が変化した令和の時代にどう合わせることができるのか、今求められるエンターテイメントとしてどう成立するんだろうということをしっかり準備されて練られた脚本だったので「これは面白いな」と思いました。

――今作では裁判員制度の法廷シーンも重要な意味を持っていますが、弁護士という役どころを演じていて、どんなことを感じましたか。

 きっと裁判員制度の場合は、弁護士の訴え方も少し違うだろうなと思うんですね。大事なことは裁判員に向かって「ここはよく聞いてください」というアピールや、訴える芝居をする。なので、僕は演じていて舞台のような感覚になったんです。そこは水田監督も「ここでは裁判員をこちらの味方につけるような言い方をしてください」と、要所要所で的確に演出をされていました。

ヘアメイク:石田絵里子、スタイリスト:中川原寛(CaNN)

――役作りのために入念な準備をされ、弁護士や裁判官の方にも直接お話を伺ったそうですね。

 なかなか会えない職種の人って、それぞれ何となくイメージがあるじゃないですか。弁護士さんがきちっとして冷静沈着、裁判官の方がそれに輪をかけたような印象が僕の中に漠然とあったので、実際にその職業の方にお会いして、自分の既成概念を取り払おうという狙いもありました。これまで医師の役も何回か演じてきましたが、その先生によってキャラクターが当然ながら違うので、対話していく中から、話し方や物腰、印象など自分が感じたものを役に取り入れてみようと思いました。

――今回の撮影現場は、常に一定の緊張感があったそうですね。

 今作にかけるキャストやスタッフみなさんの熱量はすごいものがありましたよ。みんなこの分厚い原作を読んで、映画なども見返して「じゃあ自分はこうする」とか「今の令和に置き換えた世界観ならどうすればいいんだろう」と、それぞれが考えて現場に入っていたと思います。だからみなさんの芝居も本当に面白くてね。役として受け止めたものを自分はどう投げ返そうかということがいろいろなところで丁々発止していた現場でした。こういうところが役者をやっていて楽しいところなんです。

踏み出せないのもまた人生

――椎名さんが演じた菊地は、優秀な裁判官だったものの、5年前に自身が下した判決が未だにトラウマになっています。

 この作品は、菊地が過去のトラウマを払拭しきれず、それを乗り越えていくという再生物語的な側面があります。人は誰しも、過去の失敗や過ち、後悔などいろいろなことを抱えて生きていますよね。それを「あの時こうしておけばよかった」、「もう一度あの頃に戻れば、絶対あの選択はしない」と過去のことをいくらああだこうだ言ったって仕方がない。でも、そう言うのは簡単ですが、なかなかそれに気付けずに一歩踏み出せないことも、また人生なんだろうなと考えさせられる作品でした。

――自分のトラウマとどう向き合い、どう乗り越えていくかという過程も丁寧に描かれていました。

 菊地は「自分は表には出ない」、「刑事裁判はやらない」ことを信念として、もう人を裁くのはまっぴらだと思っていた人間です。裁判官を辞めたときに法曹の世界から足を洗えば良かったんだろうけど、どこか法曹界にしがみついているんですね。でも、親友の力もあってもう一度、法廷の世界に戻ってくるのですが、何回も証人に尋問したり、加害者の青年を弁護したりする中で、色々なことがよみがえりながらも自分と闘って、少しずつ乗り越えていく。

 そして最後に「人間というのは間違いを起こすものだけど、それを乗り越えて進むしかない」と、自分の口から言えるようになるんです。それは自分に対しても加害者の青年に対しても言っていることですが、後ろにいる、かつての上司だった谷本裁判長(永島敏行)に対しても「やっと自分の口からこの言葉を言えるようになりました」という恩返しの意味もあるように思えたんです。演じていても良いシーンだなと思いました。

人が変われば、判決も人生も変わる

――本作を見て「もし自分が裁判員制度の裁判員に選ばれたら……」ということを改めて考えています。

 その事件や当事者に関わるということはそれだけ人の人生を左右するので、もし選ばれたらものの見方が少し変わるのかなと考えますね。特に裁判員制度は、基本的に殺人罪や強盗致死傷罪といった重大な刑事裁判を扱うわけですから、凄惨な事件の様子を見たり聞いたりしたときに、きっと多くの人は被疑者の感情と同化していくと思うんです。それがその後の自分の人生においてポジティブに働く部分と、それこそトラウマになるような部分もあるかもしれない。そう考えると非常に難しい問題だなと思いますし、裁判員の選出がどのようにされているかは分かりませんが、それに耐えることができて、なおかつ責任をもって出来る方が望ましいのだろうなと思います。

――椎名さんは、演じた役や作品を通して「人が人を裁く」ということについて、どんなことを考えましたか。

 人が再生する方法に「これだ」という正解はないので難しいですが、もし今後、AIが人を裁く世の中になって、最終的に人間の力が入らないようになると、何か不条理な気がします。そういった意味で、今の時代に一番帳尻が合っているのが、裁判員制度なのだろうと思います。

 ただ、選ばれた裁判員も人間なので、その人の風貌や、事件の起こり方によっては勝手な印象や偏見を持つ人たちもいるでしょう。どんな裁判でも、常に客観的な見方ができる人はなかなかいないと思います。なので、決定権を持つ少数の人たちだけじゃなく、もう少し広げた中で意見交換をして、客観的な判決を下すことがベターなのかなと思います。僕が演じた菊地が「裁判も、もう一つの『事件』なんだ」と言うセリフがありますが、人が変われば判決も変わってくる。ということは、人の人生も変わってくるのだということを改めて考えさせられる作品でした。

いつか実写化したい『平場の月』

――椎名さんはこれまでも原作物に多く出演されていますが、読書もお好きなようで、以前ご自身のInstagramでおススメの本をアップされていましたね。

 朝倉かすみさんの『平場の月』は、人を感動させて、勇気を与える作品なので大好きです。50代の男性を主人公にした恋愛小説って、日本ではなかなか見ないですよね。人間ドラマや人間賛歌ものって、若い時と今では多少感じ方は違うけど『平場の月』は久しぶりに「こういうのを待っていた感」がある作品だなと思いました。僕の中ではすでにキャスティングも決まっていて、今度WOWOWさんに企画を提案したいなと思っているくらいなんですよ(笑)。これは究極の恋愛物語だと思うのですが、下手に手をつけるととんでもないことになってしまうけど、いつか本当に実写化が実現できたらいいなと思っています。

――他にはどんなジャンルの作品を読みますか?

 ハッピーエンドもいいですが、僕は「人」が普段抱えている闇や悩みみたいなものを描いている作品が面白いと感じます。今は人との距離感が昔とは少し違って、他人とそこまで深く共有しようという意識が薄れていると思うんです。だからみんな自分だけで悩みを抱えてしまいがちになるし、人に自分の考えを言わないようにしている。そういうものを抱えている人物を小説で読むのが好きですね。