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恋バナ切り口に人間関係の本質をフカボリ 桃山商事「モテとか愛され以外の恋愛のすべて」

文:小沼理、写真:山田秀隆

普通の恋バナが苦手な人でも楽しめる

——『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』では「NEO恋バナ」という概念を掲げています。普通の恋バナとどう違うのでしょう?

清田隆之(以下、清田):恋愛のエピソードを語りっぱなしで終わらせないのが普通の恋バナとの違いでしょうか。テーマを設定して、散り散りのエピソードを結びつけながら深掘りしていくと、人間の本質やコミュニケーションの芯の部分が見えてくる……それを「NEO恋バナ」と勝手に自称しています(笑)。

たとえば、本の中に「ケンカの火種」をテーマに様々なエピソードを取り上げる章があります。喧嘩そのものではなくて、喧嘩のきっかけになったできごとを話題にしているのですが、紹介しているのは「自宅のプリンターの電源を毎回切るか」「スーパーで今日食べる豆腐を買う時、賞味期限の迫ったものを買うか」など……。すごく些細なことなんですけど、深掘りしてみるとエコロジーに対するスタンスや政治的な思想信条のすれ違いにもつながっていた。だから案外バカにできない問題だと思うんですよ。一つひとつは取るに足らない笑い話でも、つなげてみると急に本質的な部分が見えてくる。それがNEO恋バナの面白さだと思っています。

他にも、男女の食事のおごる・おごられる問題から「なぜラブホテル代は男が払うことになっているのか」という暗黙の了解について考えたり、僕がかつて恋人のお風呂を覗いてしまった体験から、なぜか「セックスの本質は他者性にある」という話に展開していったり……。自分たちの体験も身を削って披露しています(笑)。

——桃山商事は「恋バナ収集ユニット」として、過去19年間で1200人以上の恋愛相談にも耳を傾けています。それだけに紹介されるエピソードもバラエティ豊かですよね。

森田雄飛(以下、森田):僕は清田と一緒に初期から桃山商事の活動をしていますが、以前から女性たちが教えてくれる些細な恋バナがすごく面白いと思っていました。それぞれは固有のエピソードなのに、「前にも似た話を聞いたことがあるな」「自分にも同じような体験があるぞ」と感じられるんです。

だけど恋愛の些細なエピソードって、当事者の二人だけに閉じられてしまって語られないことが多いですよね。せっかくこんなに面白いのに、ただ忘れられてしまうのはもったいない。それを「お金」「遊び」「油断」などのテーマごとに串刺しにして、みんなでわいわい楽しく話したいと思ったことが、この『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』、通称『モテすべ』のベースになっています。

『モテすべ』は過去に桃山商事が配信していたポッドキャスト番組を、数年後にニコニコチャンネルの番組にて同じテーマで語り直し、その話をテキスト化した連載を加筆修正してまとめたものです。なので番組に寄せられたリスナーの体験談や、自分の友人たちの話もたくさん紹介していますね。同じテーマでも、時間をおいて改めて話してみると、自分の変化やその時の社会の雰囲気みたいなものによっても展開が大きく変わるのが面白いです。

ワッコ:私はもともとポッドキャストのリスナーだったんです。ある日iTunesで「セクシャリティ」のジャンルにどんな番組があるのか眺めていたら、お尻のようなアイコンが目に飛び込んできて……よく見たら桃だったのですが、それが桃山商事との出会いでした。その後桃山商事の皆さんに直接お会いする機会があり、それ以来仲良くなって「中途入社」することになりました。

もともと恋バナは苦手でした。近況を報告しただけなのに上から目線で「別れなよ」とか、「そんなんだからモテないんだよ」ってアドバイスされたり、興味ない人のノロケ話を聞いたりしないといけないのが嫌だったんです。

桃山商事に参加してみたら、投稿してくださる方のエピソードがまず面白いし、それを取り上げる視点も新しく、一つのエピソードからその人の人間性が深掘りされていく発見がある。こういう恋バナなら楽しいなって思うようになりました。

恋バナで大切なのは自己開示

——本の中で紹介されるエピソードはどれも赤裸々ですよね。連ドラや映画のようにドラマチックなものではないけれど、切実で、恋人のように親しい人の前でしか見せないその人の素顔が垣間見えます。

清田:恋愛にはその人自身が色濃く表れますよね。

森田:『モテすべ』の前書きでも、「恋愛という舞台では、誰もが主役として真剣に悩み、喜び、涙を流し、笑います」と書きました。これだけ多くの人が真剣に向き合って、悩むコンテンツってなかなかないなと思います。

——読みながら自分自身の恋愛の記憶がたくさんよみがえってきました。一方で、こんな風に情けない体験談を仔細にさらしていけるかな、とも思います。

清田:確かに読み返すと「すごいこと話しちゃったな……」って気持ちになるし、なにより両親も本を買ってくれたようで、読まれることを思うと死にたい気分になります(笑)。でも、話題を選んでしまうと何より自分自身が恋バナを楽しめなくなってしまうような気がするんですよね。

たとえば仕事の話をしている時は、みんな利害関係や相手から信頼されることを考えているはずです。でも、恋バナって浮気してしまったとか傷つけられて悲しかったとか、自分がその時に感じたことを述べてみないことには話が前に進まない。恋バナをする時には社会性を一旦置いて、プライベートな部分を開示することになるんですよね。

ワッコ:あと、誰かの話を聞いている時にいきなり記憶の扉が開いて、それまですっかり忘れていたエピソードを思い出すこともよくありますよね。

清田:恋バナはその時しゃべりたいことをしゃべってナンボというところがあると思う。だから我々は、誰かの恋バナを聞いている時は価値判断を下したりツッコミを入れたりすることなく、基本的にじっと耳を傾けている。ひとまずじっくり聞きながら、その人がそのできごとを通じてどういう気持ちになったのかを正確に理解することを心がけています。

桃山商事インタビューより

——感じたことを正直に話すことと、そのために聞く側が勝手にジャッジしないことが大切なんですね。そう考えると、恋バナ自体がコミュニケーションの本質的な要素の上に成り立っている気がします。

ワッコ:そうして恋バナをしていると、分かり合えた気がしてすごく楽しいです。私はこの本の中でかなりCOしていますね。

——「CO」とはなんでしょうか?

ワッコ:あ、会話で深く共感を得られた時の気持ち良さのことです。桃山商事では「コミュニケーション・オーガズム」、通称COと呼んでいるんです。

会話を加速させるパワーワードの数々

——なるほど……。「コミュニケーション・オーガズム(CO)」をはじめ、「ぬきぬき」(飲み会で女性が男性の自慢話を聞くなどして良い気分にさせること)、「ポローン格差」(男性が寝ている時に下着からはみ出ているのは許されるのに、女性のすっぴんには厳しい目線が向けられるなど、男女における油断の許容範囲の格差)など、本の中にはパワーワードがたくさん出てきますよね。

清田:基本的には話している最中に出てきた言葉をそのまま使っています。こういうフレーズはワッコが特に強いですね。下ネタ率高めですが(笑)。

ワッコ:私、友人たちと朝から晩までずっとLINEをしていて、そこでパワーワードが毎日生まれていまして。毎年クリスマスイブには流行語大賞の発表会もしているんですよ。日々の鍛錬の成果ですかね。

——(笑)。こうしたパワーワードが出てくると会話が弾むし、話が広がりやすくなる気がします。

ワッコ:本当ですか。流行語大賞やってきた甲斐がありました……。

清田:パワーワードとは少し違うけど、ワッコが入ってから女性器の名称を口にすることにすっかり抵抗がなくなりました。この人があまりにナチュラルに女性器を連呼するので……(笑)。男ばかりで活動していた時は、男性器は普通に言えるのに、なぜか女性器は言えないって感覚があったんですが。

ワッコ:性器の機会均等、「股間機会均等法」ですね。

清田:……こういう感じでパワーワードが生まれます。

森田:面白いね。メモしておこう。

ワッコ:いつ使うんですか……。でも、これってジェンダーの話でもありますよね。上野千鶴子先生が著作で「おまんこ、と叫んでも誰も何の反応も示さなくなるまで、わたしはおまんこと言いつづけるだろう」っておっしゃっていたし。

恋バナで身につく人間への想像力

——まさに今、些細な話から大きな問題に展開するNEO恋バナの一面を見た気がします(笑)。本の中でも、ごく個人的な話からジェンダーの話に展開することも多いですよね。

森田:ジェンダー問題という「大きな視点」ありきで考えることはないんですけど、自分が見聞きしたり経験したりした小さいできごとから考えていくとそこに行き着くケースは多いですね。

清田:演繹法と帰納法だったら後者のスタンスですよね。「よくこういう話を聞くなあ」とか、「自分も同じことしちゃったことあるなあ」とか思いながらひたすら深掘りしていくうちに、「あっ、これはフェミニズムの本で知った問題とそっくりだ!」みたいな気づきがあり、そこから自分たちなりに理論を学んでいくことが多いです。

森田:僕たちにはそういう学問的なバックボーンがないので、専門知識から考えていくと、上辺だけの薄っぺらい内容になっちゃうと思うんです。スタンスはあくまで「エピソードが一番えらい」。そのエピソードがどうつながって広がっていくかは、いつも話してみるまでわかりません。

ワッコ:番組で話す時もテーマという入り口はあっても、出口は全然見えていないですからね。

清田:本でも特に結論はなくて、「みんな頑張りましょう!」とか、「いいねえ」で終わっていることも(笑)。ただ、大事なのは結論を出すことではないと思っています。

恋バナをしていると、もやもやしていたり意味付けできていなかったりした体験を扱うことも多いです。それについて正確に理解しようとしたり、共感したりしていると、人の気持ちや背景を想像する力がついていくような気がしています。人間への解像度が上がっていく、というか。それで言うと最近、「フォーリンF」ってあるよなと個人的に考えていて。

——「フォーリンラブ」ではなくてですか?

清田:以前、番組で「恋愛と友情」の問題を考えた時、フレンドシップを「F」と略して呼んでいたんですね。で、恋愛での「一目惚れ」はよく聞くけど、実は友情においてもそういうことがあるんじゃないかと思っていて。というのも、ちょっとした言葉のチョイスとか、リアクションの取り方とか、ニュースに対する反応の仕方とか、そういう細かい部分から相手の人となりが読み取れて、瞬間的に「この人と絶対仲良くなれそう!」って感じることが年々増えてるんですよ。それを「フォーリンF」と呼んでるんですけど、これも恋バナをする中で身についた想像力や共感力のおかげではないかと思っています。

——「恋バナをしていると恋愛力がアップする」ではなくて、友情など人間関係にまつわる様々な分野で想像力が身につくということなんですね。

森田:僕たちがやっていることは「テーマを切り口に恋愛を掘っている」ようでいて、「恋愛を切り口に人間関係を掘っている」とも考えられる。基本的には人と人の関係性のことをずっと考えているんだと思います。

——『モテすべ』を読むと、軽い雰囲気のある恋バナの意外な奥深さに、イメージを覆される人も多いのではないかと思いました。

清田:恋バナってバカにされがちというか、ちょっと軽いものだと思われている節がありますよね……。

ワッコ:これからも恋バナの地位向上のために頑張っていかねばですね(笑)。

森田:とはいえ、ユニットとしての大きな主張みたいなものは別になくて、あえて言うなら「恋バナ楽しいよ」ってこと。『モテすべ』は文庫オリジナルで、サイズも価格も手に取りやすくなってますので、ぜひ気軽に読んでみてほしいです。

清田:女性はガールズトークの中で恋バナしている人も多いと思うので、次はNEO恋バナのようにテーマを立てて深掘りしてみるのも面白いんじゃないかなと思います。この本を読んで自分も恋バナをしてみたいと思ったけれど、あまりそういう経験がないという男性は、まずは読みながら思い浮かんだ自分の体験を友人たちと話してみるのはどうでしょうか。お金も使わないし、特別な場所に行かなくてもできるのも恋バナの魅力。超エコです(笑)。『モテすべ』を読んでみんなが語り合いたくなってくれたらうれしいです。