何のことかと戸惑う書名。
地中に伸び微生物と共生する植物の根と、「腸内フローラ」という言葉で知られるようになった体内での多様な微生物の働きを対比。栄養を得ること、外敵から身を守ることという生存に欠かせない二つの要素を助ける活躍ぶりを読み解く。原題は「隠された自然の半分」。地球で最も繁栄しながら見えていなかった微生物のことだ。
それぞれは知られた役割ではあるけれど、二つを微生物でつないで語る着想が本書の妙だ。子どものころ、通学路で見かけた小動物の遺骸が少しずつ消えて、土にかえっていくのを見ていたことを思い出した。
地質学者と生物学者の著者夫妻が自宅の裏庭を「不毛の荒れ地から生命あふれる庭園」にする懸命な試み、がんと診断された妻が健康や食生活を見直し始めた体験、二つの物語が科学と巧みに融合して微生物を身近な存在にしている。
『土の文明史』で農耕文明が土壌を使い尽くして衰退させていくことを示して話題になったD・モントゴメリーへの期待も本書が読まれる理由だろう。
本書も微生物と動植物の共生という科学の世界にとどまらず、科学技術史の流れからの位置づけ、目を引く話題、携わった研究者の物語も紡がれる。
有機物や微生物に頼らない化学肥料は、火薬と原料が共通で、肥料工場は有事に軍需工場に転換でき、それも化学肥料の普及につながった。健康な人の便を致命的な下痢患者に肛門(こうもん)から注入する「糞便(ふんべん)微生物移植」が1958年に行われ、圧倒的な効果がありながらも抗生物質が重用されてきた。「害虫を一掃するための農薬と病原体を殺すための抗生物質」も有用な微生物に被害を及ぼしている。
多様な微生物との共生世界は体の中に持つ大自然でもある。体内の微生物が天の川の星より多く、「私たち一人ひとりが微生物の銀河を持っている」と表現する。なんという万能感。微生物の世界を堪能した。
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片岡夏実訳、築地書館・2916円=10刷1万7500部。16年11月刊行。読者には有機農法に取り組む農家や園芸家のほか、医師や「腸活」に関心のある人も多いと版元はいう。=朝日新聞2019年7月6日掲載