「教皇庁の使者」書評 幻想小説を読むという醍醐味
評者: 出口治明
/ 朝⽇新聞掲載:2019年07月13日
教皇庁の使者 幻想小説
著者:服部 独美
出版社:国書刊行会
ジャンル:小説
ISBN: 9784336063571
発売⽇: 2019/05/13
サイズ: 20cm/274p
教皇庁の使者 幻想小説(フィクシオン) [著]服部独美
装丁の凝った本だが中身も劣らずユニークだ。舞台は日出の地(オリエント)。杭州やベネチアを連想させる運河の都。皇帝の身代わりとして男性機能を失った主人公は、教皇が治める日没の地(オクシデント)からやってきた老人、クリスと知り合う。クリスが過去を回想する形で二つの国の来し方が語られ、次々と摩訶不思議な場所やキャラクターが登場する。クリスが育った神殿学校、空間や時間の移動を考える青色会(カエルラ)、湖と通じている教会の地下室の池に棲むホムンクルス(人造人間)、そして教皇はホムンクルスを稚児(カタマイト)として従えている。「ほとんど全てを見た者たち」と呼ばれる旅馬車の4人組、球体(オーウム)に乗って日出の地に遠征してきた第203代教皇の名前はハールーン・ラシド(イスラームのカリフ名)。クリスはキリストの捩(もじ)りだろうか。おそらくそんなことはどうでもいい。読者が夫々(それぞれ)に想像力を膨らませればいい。それが幻想小説を読む醍醐味というものだろう。