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「人権の世界地図」書評 データで語られる差別や貧困

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月10日
人権の世界地図 著者:Andrew Fagan 出版社:丸善出版 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784621303641
発売⽇: 2019/06/28
サイズ: 25cm/130p

人権の世界地図 [著]アンドリュー・フェイガン

 どのページでもいいから本書を開いてほしい。例えば武器貿易。武器の売人は米国、ロシア、英国、フランス、中国、ドイツ。いずれも経済的に発展した国々だ。これに対して買い手はインド、サウジアラビア、パキスタンと続く。多くは発展途上国で「すべての国連機関の年間予算を合計しても、世界中の兵器産業が取引する価格の1・5%にすぎない」のだ。暗澹たる気持ちにさせられる。
 本書はほぼすべてのページが世界地図によって構成されており、市民権や司法、表現の自由、紛争、差別、女性と子どもの権利などの項目別に、現在の世界の人権の実情が数字(データ)によって赤裸々に語られる。「6秒に1人の子どもが飢えのために死亡する」「1億100万人を超える子どもたちが学校に通っていないと推定される」(児童労働)、「すべての死の3分の1は、貧困が原因である」などと目を覆いたくなるような事実が次々と明らかにされる。
 ノーベル文学賞を受賞したフランスの作家ロマン・ロランが「世界に真の勇気はただ一つしかない。世界をあるがままに見ることである。そうしてそれを愛することである」と書いていたが、事実を直視するところからすべての進歩が始まるのだ。「知識は力」となるのであって決して現実から目を背けてはならない。
 世界人権宣言が公布されてから70年以上が経つが「世界の33%の人々が民主主義的な選挙における自分たちの投票権を行使できない」状況に今なお置かれているのだ。拷問は国際的な人権法のもとで、例外なくどのような状況においても明確に禁止されているにもかかわらず、依然として広範囲に行われており、不当勾留も後を絶たない。
 夏休みには親子で是非とも本書をひもといてほしい。さまざまなことを考えるヒントが各ページにちりばめられている。カラー印刷で写真も多く、家族で読むにはもってこいの本だ。
    ◇
 Andrew Fagan 英国のエセックス大学人権センター副所長。人権学者。人権に関する著書多数。