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全共闘から50年 当時を振り返りつつ、若手研究者の新たな視点も

東京・日比谷の野外音楽堂で開かれた全国全共闘連合結成大会=1969年9月5日

現代的な意義問う若手研究者も

 アンケート形式で当事者の声をまとめた1994年の『全共闘白書』から四半世紀を機に、現在直面する医療や介護などの質問と回答を加えた『続・全共闘白書』(情況出版、11月刊行予定)の準備が進む。

 9月に都内で中間報告があった。編集者の前田和男さんによると、8月末時点で約120の大学・高校の闘争体験者から約450通の回答があった。「あの時代に戻れたらもう一度参加するか?」との質問には約3分の2が「また参加する」。25年前の55%より増えたという。

 憲法堅持の人が大半を占め、日米安保条約や自衛隊の海外派遣には反対――。70代になった体験者たちは政治的立場を変えず、ボランティア活動への参加意欲は世代平均よりも高い。「往時の思いを持ち続けており、老いても意気盛ん」と前田さんはみる。

 元東大全共闘関係者らの「68・69を記録する会」は東大闘争資料集の増補改訂版を完成させ、ビラや裁判関係の資料など約5400点、1万3千ページをDVDに収める。

 10月には『東大闘争から五〇年』(花伝社)、『歴史のなかの東大闘争』(本の泉社)と出版も相次ぐ。69年1月の東大安田講堂をめぐる攻防戦を前に、大学当局と主に全共闘以外の学生代表が交わした「確認書」を重視。学内の現実的な改革を訴えた立場から当時の学生運動を振り返る。

 現代的な意義に着目する若手研究者も出てきた。

 関係者44人の聞き取りをもとに『東大闘争の語り』(新曜社)を昨年出した社会学者の小杉亮子さんら若手3人を編者に今年2月、論集『運動史とは何か 社会運動史研究1』(同)が刊行された。2冊目も年内刊行をめざし準備中だという。

 当事者の多くは、内ゲバや就職で運動を離れた。沈黙が続く中で歴史社会学者の小熊英二さんが09年に、全共闘を日本社会の激変期における「自分探し」と分析する『1968』を出し、議論が広がった。

 小杉さんは「11年以降の脱原発や安保法制反対のデモでは、暴力や組織動員に頼った過去の運動との違いが強調された。でも授業阻止や建物の占拠といった今では過激とされる行動も含め、秩序や権威に対する異議申し立ての感覚を、時代を超えて覚えておかなければと感じた」と話す。

 『運動史とは何か』の編者の一人、松井隆志・武蔵大学准教授は、編集後記で「ノスタルジー」ではなく、「未来を築くために過去に潜ること」とつづった。小杉さんは「戦後日本では、自主的で主体的な望ましい市民の姿が理想化されてきたが、市民社会の担い手の姿はもっと多様で豊かなはず。まずは地道な社会運動の記憶を継承する必要があるのでは」と話す。

 東大と日大の全共闘の2万点に及ぶ資料の整理を進めてきた近現代史研究者の荒川章二さんは「半世紀という時間は、歴史学で客観的な研究をするために必要な時間だった」とみる。学生運動は左翼党派の関与が強く研究が難しかったが、全共闘のように党派の縛りが比較的弱い関係者が語り始めているとの見方をとる。「個人の主体性を重視し、平和や学問、人生などについて根源的な問いを噴出させた当時の運動は、その後のアジア諸国の政治的社会運動の先駆でもあった」と指摘し、今後の研究の進展に期待を寄せる。(大内悟史)=朝日新聞2019年10月9日掲載