『少年の「問題」/「問題」の少年』書評 対話で見いだす 解決への道筋
ISBN: 9784788516427
発売⽇: 2019/09/02
サイズ: 19cm/203,7p
少年の「問題」/「問題」の少年 逸脱する少年が幸せになるということ [著]松嶋秀明
「問題」を起こす少年がいた場合、その子の性格や成育歴に原因を見いだそうとすることが多いだろう。しかし、本書の立場はそうではない。その少年に対して「問題だ」という意味を読み取っている側に本書は注目する。そして、「問題」が少年自身ではなく周囲からの意味づけ、すなわち「物語」である限り、それは本人にとってより幸せな結果をもたらすものへと書き換えることができるはずだ。著者はそうした観点から、主に中学校の教員たちの生徒への対し方や語りを、観察とインタビューに基づいて描き出す。
濃厚に浮かび上がるのは、生徒と向き合う教師たちの苦悩である。生徒指導に向いていないのではないかと悩むミツオ先生、生徒の気持ちがわかる自分を他の教員らがわかってくれないと悩むリツコ先生、学校から「問題」を丸投げされていると感じる少年補導職員のマリさん。
しかし本書では、様々なケースに関して、淡い希望が示されていることが救いである。共通するのは、相手が生徒であれ保護者であれ教員であれ警察であれ、硬直したモノローグに閉ざされず、人格をもつ人間同士として胸襟を開いて話し合うことが、こじれの打開につながっていることである。
ただ、描かれている「少年」たちの行方について、もっと知りたい思いに駆られた。ずっと教室に入れなかったが、専門学校への進学を決め、手先の器用さに誇りを持ち始めたアキは、その後どうなったのか。なまじクラスに復帰できたがゆえに受験の圧力に押しつぶされたコウヘイも、その後どうなったのか。
すっきりした「問題解決」を期待する読者には、本書での論じ方はもどかしく感じられるかもしれない。だが、モノローグを打ち破り、少年たちがより幸せになる「物語」を対話によって見つけ出そうとする以外に、解決への道筋はないのだと思う。
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まつしま・ひであき 1972年生まれ。臨床心理士、滋賀県立大教授。著書に『関係性のなかの非行少年』。