カエルが喜ぶ「いい天気」を考えてみたら……
——「おっ、あしたは いい てんきになりそうだ。/せっかくだから、ちょっと でかけようかな。」次の日、外は雨。大喜びのカエルは、自転車に乗って早速おでかけすることに……。高畠那生さんの『カエルのおでかけ』(フレーベル館)は、雨が大好きなカエルの一日をユーモラスに描いた絵本だ。
この絵本はもともと、月刊の「キンダーおはなしえほん」(フレーベル館)の6月号だったんです。ちょうど梅雨の時期なのでカエルを主人公にした絵本を作ろうとしていて、ふと「気象予報士は“いい天気”という表現は使わない」という話を思い出したんですね。理由は「晴れが、みんなにとって“いい天気”だとは限らないから」。
なるほどと納得したんですが、後でテレビの天気予報をチェックしたら、普通に「明日はいい天気になるでしょう」と言っていた(笑)。でも、そこで「カエルの“いい天気”って、僕らと逆じゃないのかな」と考えたのが、始まりです。
主人公は都市に住むカエル。都会的なマンションに住んで、自転車に乗り、街をお散歩して、買い物もします。カエルがマンション暮らしをしていても、みんななんとも思わない世界なんです。カエルが当たり前のように人間と一緒に暮らしている、不思議なおかしみを出せればいいなと思って描きました。
——部屋をわざと雨漏りさせていたり、カツバーガーを水でぐしょぐしょに濡らして食べたり、雨が止んで太陽が顔を出したときに取り出すのは、お手製の「びしょぬれ傘」だったり……。周囲の人間たちとはあべこべの行動を、マイペースに楽しむカエルの行動が笑いを誘う。
もう、やりたい放題ですよね(笑)。親の視点で見ると、子どもにやってほしくないことばかり。でも、「僕らが晴れの日に散歩するような感じで、カエルが雨の日にお出かけするなら何をして楽しむだろう」と、シンプルに考えただけなんです。カツバーガーは、どういう食べ物が水に濡れたら一番おいしくなくなるか、という視点で選びました(笑)。だから、揚げ立てのカツバーガー。こってり、サクサク、おいしそうに見えるよう描きました。
描きたい絵のイメージがはじめにある
——『カエルのおでかけ』をはじめ、チーターが自分の毛皮の模様を売る『チーター大セール』(絵本館)や、巨大なホットケーキが空から落ちてくる『そらから ぼふ〜ん』(くもん出版)など、奇想天外でナンセンスなストーリーも高畠さんの絵本ならでは。アイデアの源泉はどこにあるのだろうか。
絵本を作るときはだいたいいつも、描きたい場面から考えます。『カエルのおでかけ』で一番描きたかったのは、カエルが公園でリラックスしながら“ぐしょぐしょカツバーガー”を食べるシーン。この水中と水面がずれている絵がどうしても描きたかった。
子どものころって、水槽やお風呂に手を入れたときに水中と水面に出ている部分がずれて見えるのを発見して「あれっ!?」って不思議に思いませんでした? そんな昔の記憶を思い出しながら描きました。ほかに、テキストを入れず、連続した見開きの絵だけで時間の経過を表すイメージも最初からあって。そういう「描きたい絵」の断片から、ストーリーを組み立てていきました。
ストーリーが奇想天外になるのは、こういう絵本の作り方が関係しているかもしれません。最初にある「描きたい絵」のイメージのいくつかを、ストーリーにしてつなげていくうちに、どうしても展開が飛躍するんです。
デビューする前に絵本の講座に通っていまして、そのときは起承転結を考えて普通におはなしから作っていたんですけど、全然うまくいかなかった。絵本は32ページが基本なんですが、それよりも長くなったり、短くなってしまったり……。
あるとき、絵本作家の荒井良二さんのクラスで、紙をパタパタっと折ったものの真ん中に穴を開け、何ページ目かに黄色を入れて、「これを使っておはなしを作ってみましょう」という授業があったんですね。そこで経験した「もともとある“条件”に合わせてストーリーを作っていく」作業が、ものすごく腑に落ちたんです。それから、「描きたい絵をいくつか先にイメージして、それをつなげていく」というやり方で作るようになりました。
ダイナミックな絵と細部の面白さも魅力
——ダイナミックな遠近感がある絵も魅力の一つ。色合いやタッチにどこか海外の作家を思わせるような洒脱さがある。
大学時代は今とはまったく違う真面目な絵を描いていたんですよ(笑)。絵本作家を目指して、画風を試行錯誤していた時代に、影響を受けたのはマイラ・カルマンですね。アメリカの文芸誌『ザ・ニューヨーカー』の表紙をずっと描いているアメリカのイラストレーターなんですけど、彼女の絵も独特の遠近感なんですよね。どういう絵なら面白く描けるのか、絵本作家になったばかりのころは手探りでいろいろ試していました。
子どものころを思い出すと、父が絵本作家(高畠純さん)という環境もあって、とにかく家にはたくさん絵本がありました。大好きだったのは、嵐山光三郎さんが文、安西水丸さんが絵の『ピッキーとポッキーのかいすいよく』(福音館書店)。絵本の筋よりも、「大きい筏(いかだ)に小さい筏がくっついている絵」が大好きで。この絵を見ては「いつ転覆するか分からない……深そう……落ちたらどうしよう!」と、登場人物の気持ちになってスリルを味わっていた(笑)。ホント、その場面だけを飽きずにずっと眺めていたことを覚えています。
小さいころはこういう絵本の「細部」が好きでしたね。自分の絵本でも細かいところであそびの部分を作っているところがあるかもしれません。読者がどこに引っかかりを感じて、その絵本を好きになるかは、それぞれですよね。主人公やメインストーリーに興味がなくても構わない。どこか自分の好きな部分を見つけて、絵本の世界を楽しんでもらえればいいなと思っています。