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平澤まりこさんが絵を手がけた「コーヒーの絵本」 初心者から愛飲家まで自由に楽しめるコーヒーの世界

『コーヒーの絵本』(mille books)より

おいしいコーヒーを日常でも旅でも

——朝、目覚めてすぐ。あるいは、仕事中にひと息つきたいとき。そして、食後の一杯 ——。自宅で入れるコーヒーは日々の生活の句読点のようだ。徳島市で自家焙煎のコーヒー豆専門店「aalto coffe(アアルトコーヒー)」を営む庄野雄治さんとイラストレーターの平澤まりこさんがつくりあげた『コーヒーの絵本』(mille books)は、そんな「おうちで飲むコーヒー」のおいしい淹れ方や楽しみ方を教えてくれる「世界でいちばんやさしいコーヒーの絵本」。もちろん、絵を担当した平澤さんの暮らしにもコーヒーは欠かせないものだという。

『コーヒーの絵本』(mille books)より

 朝起きて犬の散歩が終わった後、コーヒー豆を挽いてゆっくりと淹れます。ふわりと漂うコーヒーの香りを嗅ぐと、だんだん目が覚めてくる。一日の始まりに欠かせない習慣ですね。

 旅先で出合うコーヒーにも印象的なものがたくさんあります。イタリア・トスカーナ州の小さな村では、バールで毎日のように朝食とカプチーノを頼んでいたのですが、いつの間にか注文しなくてもお店のおばさんがカプチーノを出してくれるように。フィレンツェのバールで、スーツに身を包んだ男性が出勤前にエスプレッソをキュッと飲み干して、サッと店を出る粋な姿も忘れられない旅のひとこまです。

誰でも読めるコーヒーの入門書をつくりたい

——『コーヒーの絵本』の制作当時、出版されていたコーヒーの解説本はややマニアックな内容のものが多かったそう。「これからコーヒーを自宅で淹れてみたい」という初心者にも、ハードルを感じさせない構成と見せ方を心がけた。

『コーヒーの絵本』(mille books)より

 文を担当したアアルトコーヒーの庄野雄治さんは、大のプロレスファンなんです。でも、かつては国民的な人気を誇っていたプロレスが、下火となった時期があったそう。それは「一握りのコアなファンなものになってしまったからだ」と庄野さんは分析されていて「コーヒーの世界はそうなってほしくない」と話していました。「マニアだけでなく、初心者も自由にコーヒーを楽しんでほしい」という思いが、この本には詰まっています。

 絵を手がけるにあたって、「構成や文章が分かりにくくないか、平澤さんの視点でどんどん指摘してほしい」とリクエストをいただきました。「絵本」というかたちに合わせて、絵や文は極力シンプルに。庄野さんや担当編集者と相談しながら、難しい専門用語はなるべく使わず、直感的に理解できるように試行錯誤しました。

『コーヒーの絵本』(mille books)より

 絵本では、コーヒー豆の産地や種類、焙煎による味わいの違いから、ペーパードリップで淹れるときに必要なアイテムや淹れ方のコツ、自分の好みに合わせた楽しみ方まで、コーヒーに関する基本的なポイントをパートごとに分かりやすく解説しています。

 例えば、コーヒーは挽き目によって味わいが変わりますが、いきなり「粗挽き」「細挽き」と言われても、ピンと来ない人もいるでしょう? 「最初は“グラニュー糖”くらいの中挽きで入れてみて、そこから粗挽きや細挽きなど自分好みの挽き方を探す」など、初心者でも感覚的につかみやすい庄野さんの表現もこの本の魅力だと思います。

 入門書という位置付けですが、コーヒーを日常的に飲む人にとっても「そうだったのか!」と感じるような豆知識が散りばめられている。「さらりと読めるけど、中身はすごく実用的」と読者の方からもうれしい感想をいただいています。

「深い赤」がぴりっと効いたデザイン

——表紙には「THE ILLUSTRATED BOOK ABOUT COFFE」という英字のタイトルとイラスト。深みのある赤と黒の2色で構成されたシンプルなデザインが目を惹く。

 この絵本で使った渋みのある赤色は、祖母が愛用していたドイツ製のコーヒーカップからイメージしたものなんです。「コーヒーといえば、あの赤いカップ」という幼少期を思い出しながら、赤と黒の2色で制作しました。

 装丁は昔から好きだった『ティファニーのテーブルマナー』の本を思い浮かべて、アイデアを出したことを覚えています。「コーヒーの絵本」という日本語のタイトルが入るのは帯だけなので、帯やカバーを外すとちょっと洋書のような雰囲気にもなりますね。

 どのページにも思い入れがありますが、お気に入りは「コーヒーは生鮮品と同じ」というページですね。コーヒー豆は鮮度がとにかく命。開封したら暗所で保存して早めに使い切る、という大事なポイントを分かりやすく表現できたかなと思っています。

『コーヒーの絵本』(mille books)より

「自分好みのコーヒー」で満たされる時間を

——発売から10年を超えた今も、ロングセラーとして親しまれている本書。最近ではコーヒー好きの大人だけでなく、小さな読者からの反響もあり、うれしい驚きがあったという。

 昨年、小学6年生の女の子から「夏休みの自由研究の参考にしていいですか?」と編集部に電話がかかってきたそうなんです。「実際にいろいろな豆を買って、本の通りに自分で淹れて飲み比べる自由研究をしたい」という問い合わせで、編集者が「コーヒー好きなの?」と聞いたら、「ミルクとお砂糖を入れて飲んでいます」って。こんなに小さなコーヒーファンもいるんだな、となんだかうれしくなりました。

『コーヒーの絵本』(mille books)より

 高い道具をそろえなくてもいい、おいしく飲むための基本さえ押さえておけば、後はあなたの好みでご自由に、というスタンスがこの本のいいところ。読者の方にはこの本を片手に、「自分で淹れた世界にただひとつのコーヒー」に満たされる時間を楽しんでいただければと思っています。