夏の夜空を美しく彩る、花火。その歴史を丹念にたどった『花火』(法政大学出版局、ものと人間の文化史シリーズ)が刊行された。
著者の福澤徹三さんは、東京都墨田区にある、すみだ郷土文化資料館の学芸員。江戸時代までさかのぼる「両国の花火」のおひざ元とあって展示などで花火を取り上げる機会も多く、執筆を勧められたという。
福澤さんによると、花火に関する最古の記録は1589(天正17)年。戦国武将・伊達政宗が唐人(明国人)の花火を鑑賞し、自らも手にしたというものだ。
24年後の1613(慶長18)年には、江戸幕府を創設した徳川家康が唐人の花火を見たという記録が残る。当時の花火は限られた人々だけが鑑賞できる特権的な文化だったようだ。
もっとも当時の花火はアシなどに火薬を詰め、そこから吹き出す火花を楽しむ程度のもの。打ち上げ花火が出現したのは18世紀後半で、武士が戦時に夜間連絡などに使う「狼煙(のろし)」の技術移転によって生まれた。その後も時にぜいたく品として禁止されながら、武士の「火術」との関わりの中で花火は発達していく。
隅田川で行われる納涼花火は18世紀にはかなり盛んになっており、幕末は中断したものの、1903年にスターマイン(連続噴射花火)が登場したのをきっかけに再び人気を集める。
1936年には50万人が観覧するまでになったが、戦争で41年に中断。戦後復活するが、水質汚染などが原因で63年に再び中断。78年に再開した。「平和で豊かでないと花火を続けることはできないんです」と福澤さん。花火の色は長い間、オレンジ一色だった――等のトリビアもいっぱい。楽しく読める一冊だ。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年11月6日掲載