- 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』 飯田一史著 平凡社新書 1320円
- 『新・大阪学』 畑中章宏著 SB新書 1045円
書店の視点で見ると本という商品は八方塞がりである。原価率に対して価格が安く、利幅が非常に薄い。値は出版社が決め、配本は取次が支配し、とくに中小規模の書店には決定権がない。書店は何度も値上交渉をして来たが出版社の反応は鈍い。薄利多売でも取り分の多い版元は倒産しないが、書店にとってはマージンの低い書籍は常に赤字必至で、日本の特徴として雑誌の購買に乗って販売していたが雑誌も凋落(ちょうらく)。書店は必死に他商品との兼業で延命してきた。(1)は広範で綿密なリサーチに基づき、書店の悲史をくまなく理解できる労作だ。国の個別競争を促す施策も影響した。公正取引委員会は独占禁止法を盾に、書店団体による横並びの価格交渉に横槍(よこやり)を入れ書店は一層萎縮。そこに巨大倉庫の在庫把握という出版界全体の課題を一気に突破するアマゾンという黒船が到来。本が読まれないと嘆くずっと前から、構造的に書店は抑圧されていた。当読書欄を読んでいる諸氏はきっと身につまされる。
(2)は食い倒れや芸人の大阪だけではない、大阪の知的ネットワークを探る試み。商売と倫理を離れ難きものとした僧侶・慈雲を生んだのも大阪なら、宮本常一が市井の声を初めて拾ったのも大阪。数年前に居を東京から移したという大阪出身の著者は、天王寺で宮本と建築家・村野藤吾、詩人・伊東静雄が連れ立って夢洲の万博へ行く様を夢想する。万博以後、大阪は変わるのか? 示唆的な一冊だ。=朝日新聞2025年6月7日掲載
