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「AI時代の労働の哲学」「銀河帝国は必要か?」書評 「人」か「物」か 二分法が揺らぐ

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月09日
AI時代の労働の哲学 (講談社選書メチエ) 著者:稲葉振一郎 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784065171806
発売⽇: 2019/09/12
サイズ: 19cm/216p

AIが人間の仕事を奪うというのは、技術が仕事を奪うという「古くて新しい問題」。AI化のインパクトはこれまでの機械化と同じなのか。「労働」概念自体から振り返り、資本主義その…

銀河帝国は必要か? ロボットと人類の未来 (ちくまプリマー新書) 著者:稲葉振一郎 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480683540
発売⽇: 2019/09/05
サイズ: 18cm/217p

ロボットとの共存がリアリティを増してきた現代。「心ある者」とはいったいなんなのか? 人類の未来を、これからの倫理を、どのように構想すればいいのか? アシモフをはじめとした…

AI時代の労働の哲学/銀河帝国は必要か? ロボットと人類の未来 [著]稲葉振一郎

 昨今はAIブームで、多くの書籍が刊行されている。この種の流行(はや)り物はどうしても直近の現象に目を奪われがちだが、過去や未来への目配りが必要だ。
 人間労働を機械で代替する技術革新が労働者の賃金を下げ雇用を減らしてしまう危険性は、デイヴィッド・リカードウやカール・マルクスが既に19世紀に語っている。『AI時代の労働の哲学』は、産業・労働の機械化に関する経済学・社会学などの研究史を概観し、「機械に仕事を奪われる」という危惧は歴史上、何度も浮上したが、それらの予測は基本的に外れたと指摘する。そして人工知能があくまで「道具」に留まるなら、従来の機械化と同様に、私たちの社会を根本的に変えることはないと結論づける。
 では、もし人工知能が自律的な判断・行動能力を獲得したとしたら? 人工知能の「道具」扱いを改め、権利や尊厳を認めなくてはならないのではないか。著者は近代的な「人」「物」二分法が揺らぐ可能性を主張する。本書が「哲学」を冠する所以(ゆえん)である。
 自らの意思を持つ人工知能が現存しない以上、SFを参照することは有益だ。同じ著者による『銀河帝国は必要か?』は、SF作家アイザック・アシモフ(1920~1992)の銀河帝国シリーズを手がかりに、ロボット・人工知能の発達の方向性を展望する。アシモフのロボットSFがロボット・人工知能倫理学において現在でも言及される一方、銀河帝国シリーズは一種のファンタジーと解されてきた。しかし著者は、高度に自律的な知能ロボットは、恒星間宇宙探査においてこそ求められると説き、ロボット開発と宇宙開発の密接不可分な関係を論じる。
 高度な人工知能の出現や太陽系外への進出は、「人間」「人類」の定義すら書き換えるだろう。現状では夢物語であっても、21世紀の哲学はそこまで視野に入れるべきである。
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いなば・しんいちろう 1963年生まれ。明治学院大教授(社会哲学)。『政治の理論』『不平等との闘い』など。