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「世界のはての少年」書評 極限で見た人間の強さも弱さも

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月16日
世界のはての少年 著者:ジェラルディン・マコックラン 出版社:東京創元社 ジャンル:欧米の小説・文学

ISBN: 9784488010966
発売⽇: 2019/09/20
サイズ: 20cm/317p

世界のはての少年 [著]ジェラルディン・マコックラン

 読み始めたら止まらず、読み終わったあとの衝撃と悲しみ。ものすごい話である。そして、これは実話に基づく物語なのだ。
 セント・キルダ諸島と聞いてわかる日本人は、まずいないに違いない。スコットランドの沖合にぽつんと離れて浮かぶ岩だらけの島々。私は1998年の3月から6月まで、ヒツジの調査でここに滞在したので、本書に描写されている島の様子はよくわかる。
 一番大きなヒルタ島でも一日で一周できる広さ。今は世界遺産であり、ナショナル・トラストが管理しているが、1930年まで最大で180人ほどの人々がここで暮らしていた。
 セント・キルダは海鳥の島である。ツノメドリ、カツオドリ、フルマカモメなどの鳥が何万とここに集まって巣を作る。それを捕まえ、肉と卵を食べ、油を燃やし、羽毛を服にする。樹木は1本もない、それは厳しい暮らしであった。
 1727年の夏、9人の少年と3人のおとなの男性が、ヒルタから「戦士の岩」と呼ばれる岩だけの島へと渡った。冬に備えて海鳥を大量に捕獲するのが目的だ。3週間後には迎えの船が来るはずだった。が、何週間たっても船は来ない。およそ9カ月後にやっと船が来るのだが、その間、ヒルタでは何が起こっていたのか?
 極限状態に置かれた12人。そういう時に人は何をし、何を考えるか? 食料を確保し、暖を取るのは必須だが、心がむしばまれていくのが一番怖い。人間は、頭に描いた世界を持ち、そこに意味を見いだせねばならない。記憶、物語、価値、信念。どれも、自分たちの心が紡ぎ出すものだ。
 想像力こそが希望へと導いてくれるが、時に狂信をももたらす。それでも1人を除き全員が生還した。人間の強さも弱さも見た彼らのこの後の人生はいかに。経験は口にできないほど重い。「世界が終わっても、音楽と愛だけは生き残る」。最終章はかすかな光だ。
    ◇
 Geraldine McCaughrean 1951年生まれ。英国の作家。『不思議を売る男』と本書で2度カーネギー賞。