「独裁者のデザイン」「独裁者のブーツ」書評 視覚的な国民懐柔とその批判
ISBN: 9784582620689
発売⽇: 2019/09/06
サイズ: 19cm/351p
ISBN: 9784907986636
発売⽇: 2019/09/30
サイズ: 20cm/181p
独裁者のデザイン ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東の手法 [著]松田行正/独裁者のブーツ イラストは抵抗する [著]ヨゼフ・チャペック
独裁者はどんなデザインを好むのか、視覚的に国民を懐柔する際の特質を追ったのが、松田書だ。一方、ヒトラーがヨーロッパを席巻した時代、風刺や批判を続けたチェコの画家を紹介するのが、増田編訳書である。
20世紀の独裁者の手法には共通点がある。ポスターの写真が国民を凝視するか笑顔が多いかだという。独裁者は常に怯えているためか、現在の困難は未来との関わりで捉えよ、と訴える点に特徴があるようだ。
松田書には「遠望する視線」という章がある。凝視や燃える視線などのポーズには、「独裁者の個人崇拝に大いに貢献してきた歴史」があるという。ヒトラーは、政策をやり抜く意志を示す時にはこの種の写真を利用した。1937年に開かれた「四カ年計画」の実績を示す展覧会のポスターや、翌年のオーストリア併合を問う国民投票の時も遠望の写真を使っている。侵略ではなく、手続きを踏んでいるかのような印象を与えるためだろう。
横顔は未来を遠望する視線のバリエーションだという。横顔写真は頭髪と関係があるとの指摘も面白い。ヒトラーは髪の薄さを気にしていたので、横向きの時は軍帽をかぶっていた。ムソリーニは禿頭(はげあたま)で頭を剃っているため、たいてい帽子をかぶっていたそうだ。
毛沢東は横顔を活用し、バッジも切手も大体が横顔だ。彼の詩や指示は切手になった。「訓示まで切手サイズに書かれるとなると、逃げ場のない圧迫感に押しひしがれそうになる」と、松田は書く。
チェコの画家ヨゼフ・チャペックによると「独裁者のブーツ」は民衆を踏みにじるとの意味だが、ヒトラーが政権を握ってまもなくヨゼフは「全体主義の怖ろしさを見抜いていた」。ドイツによる制圧後、彼は逮捕され強制収容所を転々とし、死んだ。「独裁者のブーツ」の犠牲者である。ヨゼフの描いたブーツが骸骨の山に立っている絵は、ある時代の真実を伝える。
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まつだ・ゆきまさ 1948年生まれ。グラフィック・デザイナー。『眼の冒険』など▽Josef Čapek 1887~1945年。画家、エッセイスト。