北摂エリアの住宅街に位置する一軒家。午前10時。燦々と天窓から降り注ぐ朝日。樋口さんのアトリエは木の家具と共に、「きのこリウム」が気持ちの良いバランスで並んでいました。コケ、シダ、流木、石、そして、きのこ。様々な素材がガラス容器の中に見えてきます。樋口さん、「きのこリウム」って何ですか?
樋口さん「そうですね。皆さんに聞かれるんですが、出会いはとてもシンプルなんです。父が盆栽をやっていたことからコケにも親しんでいましたし、水草を使ったアクアリウムは小学生の頃から作りはじめてもう30年になります」
なるほど! だからアトリエの玄関にはアクアリウムがあったのですね。魚たちが生き生きと泳いでいました。
樋口さん「5年ほど前でしょうか。近くの万博記念公園に友人たちときのこの観察会に行ったのがきっかけで、きのこに興味を持ちはじめたんです。枯れ木からニョキッと出ていたヒラタケ。面白い形だな! きのこをコケリウムのレイアウト素材の一つにできるかも! ということに気づいたんです。
まずはホームセンターで椎茸のホダ木を買ってきて、庭できのこを育ててみました。でも生えてこなかったんですよね。その失敗からさらに興味が湧いたんです。そこから、どんどんきのこの仕組みを調べていくことになりました」
そして研究の結果、「菌床(きんしょう)」に出会うことで、安定した生育を確保。しかも“楽天でワンクリックで買えた”という手軽さも樋口さんの心をときめかせたとのこと。ウェブデザイナーの仕事の傍、アトリエにはどんどんと作品が増え、自身で撮影された写真を公開したSNSも話題となり、4年間で編み出してきた作品のプロセスをまとめた初の著書『部屋で楽しむ きのこリウムの世界』(家の光協会)が完成するまでに。
樋口さん「見てください。この“生長のコントラスト”を!(笑) この言葉は本の中でも何度も出てくるんですが、僕がきのこリウムの中で一番面白いと感じているところでもあるんです。コケは“静”で、きのこは“動”。苔はゆっくりゆっくり時間をかけて育つのに対し、きのこの生長は目に見えて早いんです。早ければ、1週間くらいで大きくなりますからね。
そしてもう一つの醍醐味が、その生長が読めないことですね。光の量、角度、湿度や温度、いろんな条件の中、“この子達”がその条件に合わせて育っていき、かつ、“適していく”ことが気持ちいいんです。なので、人間が作り上げたオブジェではなく、山の自然を切り抜いてきたように見えてくるのが、一番嬉しいですね」
そう力強く語ってくださる樋口さん。何度もきのこの「曲線美」を愛でている姿が印象的でした。思わず我々も魅入ってしまうほどに、はじめてきのこの美しい部分を知ったのでした。
そして、実際に作ってみよう! と準備してくださっていた素材や道具。樋口さん自ら、当取材のために作り方をレクチャーくださることに。何と贅沢! ここからは全行程を写真で追いかけます。
きのこリウムを作ってみよう!
最後に、樋口さんが読者の皆さんにお伝えしたいことを聞いてみました。
樋口さん「お疲れさまでした。楽しんでいただけたようで良かったです。自然界にはとても美しいフォルムのきのこが生えていますが、毒きのこであることが多々あり、知識なく山から採っては危険です。食用のきのこと外見が似ていることもあります。日本に自生しているきのこの中には、麻薬原料植物にあたる種類もあります。そういったものは所持するだけでも法律違反になります。自然界からきのこを採取してくるのはやめ、エノキタケ、ナメコ、ヌメリスギタケ、白ヒラタケなど、食用として市販されているものを使用してほしいです。
そして、冬場はエアコンや日照不足など、生育環境で生長は様々です。思ったように育たなくても、ぜひその姿も楽しんでいただけたらと思います」
ありがとうございます。約1時間半。樋口さんによる丁寧なレクチャー。貴重な時間を持たせていただきました。実際に手を動かした助手は、土の匂いがしたり、石の冷たさを感じたりと「五感をフルに使って、いつの間にか山に行っているような気持ちになりました」と終始嬉しそうでした。
それから1週間。まさに、ニョキッと、きのこが登場しました。思わず拍手してしまう感動。持ち帰った事務所でこまめに霧吹きをしたり、本を片手に容器内のお手入れをしていた助手。すっかり「きのこリウム」を愛でる毎日になっています。
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