ダンボールでラジコンバスまで
――最近はコロナ禍のため自宅からあまり出ない家庭が増えたこともあり、親子向けのダンボール工作の本をよく目にします。ただ、うぷあざ棟梁さんの今回の著作は、初級編の「ブタの貯金箱」からしてまるで精巧な木彫り細工のよう。こうしたリアル路線の「ダンボールクラフト」をSNSやネット動画で発表してきたうぷあざさんですが、いつからはまったのでしょうか?
実は、ダンボールを作り始めた最初の方の記憶はありません。3~4歳頃には既にハサミを手に工作していました。子どもの頃はほぼ週に1(作)くらいの頻度で作っていましたね。今よりクオリティーが低い分、ポンポン作って遊べましたし。クラスに1人はいる、工作少年みたいな子でした。
ダンボール以外にも、鉄道模型やプラモデルといった作る系の趣味は一通りたしなみました。ただ、自分でプラモデルを作って塗装などに凝りだすと、「ここまで凝った作品にするなら、自分で一から作った方がいいんじゃないか」と考えるようになったのです。他の趣味に移ってもまたダンボールに戻る感じでした。(幼少時からの)作品は1000を超えるかもしれません。
――ちなみに子ども時代の代表作は?
小学3年生の時にフェラーリやランボルギーニといった外国のスポーツカーにハマったことがあり、ダンボールで作りました。他にも、戦車の写真を見ては再現してみたり、映画に出てきたホバークラフトを作ったことも。普段の生活の中で影響を受けた物を作ってきました。
――その後もダンボールクラフトを手掛け続けたうぷあざさんですが、2012年、20歳の時にニコ動での初投稿作となる「首里城の守礼門」を公開しました。今ではYouTubeでも活動していますが、なぜ動画で発表しようと思ったのですか?
もともと作品を人に見せるのが好きでした。家族と住んでいるときはそれができましたが、社会人になって一人暮らしになると誰も見せる人がいない。そこで当時からはまっていたニコ動に投稿しようと思ったのがきっかけです。
ニコ動での投稿は、作品製作の頻度に依存しますが、だいたい数か月~半年に1回くらいです。制作過程の写真(静画)や動画を盛り込み、5~6分くらいにまとめる感じですね。細切れ状態になったダンボール(の様子)からスタートし、「これが(建物の)柵や柱になる」と説明していくと驚かれるものです。
13年には「松本城」を発表、ニコ動で16万再生を記録しました。19年にフランスの「BEA」(フランス航空事故調査局)という政府機関の建物を作ってネットにアップしたところ、2か月後にその当局から「売ってくれないか」と連絡が。(最終的に)寄贈したのですが、直近で思い出深いのはこの作品です。まさか自作がフランスに行くとは……と驚きましたね。
あと、反響という意味では、14年発表の「バスのラジコン」も大きかったです。
――ダンボールでラジコン?
何を言っているの?という感じですが、中に電子部品を仕込んで動かす作品でした。車のラジコンというと、走ったり止まったりするだけの物を想像すると思いますが、僕のバスは扉が開くのです。しかも、扉の開閉に合わせて車体が傾くようにしました。(本物の)バスの「ニーリング」という機能です。前にあるワイパーも動くようにしました。全部ラジコンで遠隔操作できるんです。ニコ動では17万再生、YouTubeでも15万を超え、「ワイパーが動くラジコンなんて見たことないよ」と期待以上の反響を得られました。
ダンボールという素材に縛られる製作が楽しい
――こうしたダンボール技術は我流で身に付けたのでしょうか?
はい、ただ我流とは言いつつも情報収集はしてきました。ワクワクさん(NHKEテレ「つくってあそぼ」の久保田雅人さん)に注目したり、昔やっていた「TVチャンピオン」(テレビ東京)という番組の、ダンボール王選手権の回は見逃さないようにしたりしていました。
――本書を読むと、まるでダンボールをプラモデルの部品のように駆使し組み立てる作風なのですね。
他の作家の中には、ダンボールを折ることで作品として表現したり、ちぎっては張り付けて彫刻のように作る人もいるなど、それぞれ個性があるものです。名前すらついていない技法もあります。僕の場合、細かい部品をいっぱい作って組み合わせているので、確かにプラモデルっぽいと言えますね。
――ただ、素人っぽい考えかもしれませんが、DIYでは今や様々な材料や道具があります。建物や車などをリアルに再現するためだけなら、流石にダンボールよりも便利な素材の方が多いような。なぜダンボールにこだわるのですか?
突き詰めていくと難しい質問ですが……。素材を縛る、ということに僕は凄い楽しみを覚えるのです。素材を限定すると通常ならばやれることも限られますが、その制約がある中でどれだけのことを面白くやれるか、ですね。「この技は禁止」「〇レベル以上のキャラを使わない」といった、ゲームの縛りプレイのようなもの。ダンボール工作においても、あえて素材を限定することでどれくらいのことができるか、突き詰めていくのが作家として楽しいのです。
例えば、数年前にハンドスピナーというおもちゃが流行りました。ダンボールでこれを作る動画がちらほら現れたので、僕も乗っからないわけにはいかないと思いました。ただ、そこでネックになったのがベアリング(※軸受。ハンドスピナーで回転する軸を支える部品)でした。ハンドスピナーをスムーズに回転させるためには必須の物で、凄い精度が必要だった。おいそれとはダンボールで作れないが、これがないとハンドスピナーにはならない。他の作家さんたちの間では、市販のベアリングを使用して他の部分をダンボールで作るケースがほぼ100%でした。
逆に僕は「だったらベアリングもダンボールで作ったら受けるのでは?」と考えた。100%ダンボール製のハンドスピナーです。結果、市販品のようには何分も回りませんでしたが、17秒は回る物になりました。YouTubeでは60万再生を記録しましたね。このように、制限の中で頑張って作る方が、制限しないケースより面白くなることがダンボール工作ではとても多い。僕はあえて手段を縛ることで面白さを足していくのです。
一つ一つの工程を丁寧にこなす
――本書はこうしたうぷあざさんの「ダンボール製作史」にも触れつつ、メーンとなるのは一般の人、子どもにも作れるとしているダンボールクラフトの作り方指南です。ダンボールの基本的な扱い方、道具の選定、制作手順、“部品”を用意するための型紙まで網羅されています。ただ、特に不器用な人間からすると完成品はかなり精巧な見た目なので、「大人でもコレって作れるの?」と怖気づいてしまいます。「実際に鍵盤のフタが開くピアノ型の筆立て」とか……。最後に、工作のコツと心構えを教えてください。
工程の1つ1つを丁寧にこなすことです。まず、使い古されたダンボールを材料にしない。汚かったり潰れていたりしますから。あくまで新品の綺麗な物を使ってください。道具も、例えばハサミであればコーティング(接着剤が付きづらい非粘着加工)された物を選んでください。不器用な人でも、道具や材料を揃えれば高い水準の作品になりますよ。あと、(製作中は)1時間おきに手を洗ってくださいね。手汗が付いたダンボールは時間がたつと変色してしまいます。材料、道具、そしてコツを踏まえて作ることで、ダンボール工作も意外に難しいものではないと体験してもらいたいですね。
ダンボールは、一般の人からすればただの梱包材です。商品を包んで運んだ後は捨てられていたそれらが、作品として生まれ変わる。そこに「逆転」の面白さがあると思うんです。視点を変えることで、日陰者がスポットを浴びるような。
特に今は、コロナによる自粛でダンボール作品の展示イベントが開きにくい状況です。本書を通じ、自分で作品を作って触れられる楽しさを伝えたいですね。